「母さんの歌」に、「ふるさとの便りはとどく 囲炉裏のにおいがした」という歌詞がある。家人が寄り集まる囲炉裏は、一家団らんの象徴でもある。だから、便りにしみついた囲炉裏の匂いに、ふるさとにいる家族を思う気持ちが募る。▼今はどうだろうか。家族がそろう居間はあっても、それぞれの個室があり、家族でもプライバシーが尊重される時代だ。囲炉裏に匹敵するような、一家団らんの象徴は薄れている。住宅の構造は大きく変わった。とりわけ一軒の敷地面積が広い地方は、部屋数が多くとれるだけに、家人が個室で過ごす時間が昔と比べて格段に増えた。▼「1人にひと部屋」の傾向は、家電にも見られる。「一家に1台」から「1人に1台」へと変わってきた。ステレオもテレビも小型化し、1人に1台の流れが見られる。特に、携帯が普及した電話は顕著だ。▼一家に1台の時代が到来したあと、家電メーカーは「家電から個電へ」という戦略スローガンを掲げた。評論家の三浦展氏は、そのスローガンは、広い家に住み、誰もが個室を持つ地方でこそ功を奏したという。▼1人にひと部屋、1人に1台の地方だが、厳しい寒さが予想されるこの冬は、一家団らんを見直す好機かもしれない。なにしろ、この原油高。一家団らんは灯油の節約にもつながるのだから。 (Y)