「資金を引っ張ってくるのも、仲介も融資も決裁も、会計基準も財務諸表もすべてが自分の手のなかにある。最終的な貸借対照表の数字以外は、政治資金報告書を筆頭にほぼ百パーセントが自分の芸術的かつ完璧な創作だ。しかも、これまた完璧な帳簿と領収書という創作も揃っておる」。▼80年代の青森県政界を舞台にした高村薫の小説「新リア王」は、主人公の代議士周辺以外は竹下、金丸等々実名で登場し、非常にリアル。上述は、長年信頼していたのに自殺した金庫番秘書の、主人公による代弁だ。▼「天下国家の計しかない代議士が自分の身辺をいちいち案じなければならないようでは秘書のいる意味がないわ。金のことは金庫番が知っておればいい。選挙とドブ板のことはこの竹岡らが知っておればいい。後援会の何千という会合の詳細は事務局長が知っておればいい。そうして築いてきた福澤王国だ」。▼こちらは別の秘書の言。主人公の福澤代議士は地元で「王国」と言われるほどの名門出で、閣僚経験もあり教養、見識の深い、ある意味立派な政治家なのだが、中央の権力闘争に巻き込まれ、やがて王国は破滅に向かう。▼それにしても、昨今の領収書改ざんやコピー乱造は、いかにもみみっちい。政治資金規正の改正法がいつの間にか成立したが、引き続き見守らなければ。(E)