この春に市役所を退職する知人にばったり出会った。60歳を前に迎えた第二の人生。その歩み方はまだ考えていないという。しかし、平均寿命までにはまだ遠い。自分もやがて迎える節目を思いつつ、「これからをどう過ごすか、生き方の見直しが求められる」と話し合った。▼戦後、平均寿命は格段に伸びた。1947年は50歳代前半だったのが、今は人生80年。人生における4つの苦しみを生老病死というが、リタイア後ほどなくこの世から消えていた昔と比べて、今は「老」がより浮き彫りになった。▼神戸山手大学の小西康生学長から興味深い話を聞いた。60歳以降、仕事をしなかった場合、60歳から80歳までの自由時間は、10万時間という計算になる。これは、60歳になるまで働いてきた時間と同じぐらいというのだ。▼老後の自由時間は、現役時代の労働時間に匹敵するほど長い。そう思うと、四苦のひとつ、老をいかに苦とせず、楽しく充実したものにするかが求められる。▼小西学長はその一例として、隠居後に測量を勉強し、日本全国を巡った伊能忠敬をあげていた。忠敬のようにリタイア後に、自由時間を使って後世に残る仕事を成し遂げた人たちは少なくないという。我が身を顧みると、それほどの仕事はとても出来まいが、老に向けて心の準備はしておきたい。 (Y)