不破数右衛門は討ち入り前、古市に住む母を秘かに訪ね、晴れの日のためにと襦袢を贈られた。今に伝わる同地の義士祭のいわれだが、この数右衛門、超義理堅い人物だったようだ。▼かつて彼は何かのいさかいで家僕を斬り、内匠頭の勘気に触れ浪人させられていた。にもかかわらず、浅野家断絶と聞くや赤穂に馳せ参じ、内蔵助に懇願。やがて義盟への参加を許される。▼毎日新聞に連載中の諸田玲子作「四十八人目の忠臣」は、磯貝十郎左衛門の恋人、きよが主人公。ここで数右衛門は彼女の兄「けんかえもん」と組んで、誰もが恐れたお犬様に腹いせする剛の者として描かれている。きよも兄も架空の人物らしいが、十郎左衛門の遺品から琴の爪が出てきたという史実がヒントになっているのだろう。▼昨年、諸田さんに柏原の田捨女の話をした時、「元禄の人なら、忠臣蔵と関係はないでしょうか」と訊かれた。すぐには思い及ばなかったが、赤穂に近い網干の龍門寺の禅僧、盤珪が内蔵助の師だったと、後になって知った。盤珪は捨女(法名貞閑)にとってもかけがえのない人。▼討ち入りの頃には貞閑も盤珪も鬼籍に入っているが、彼らの生前に内蔵助が寺を訪ねた可能性はなくはない。さすれば貞閑とも…などと想像を膨らませるのは、作家ならずとも楽しい。(E)