国難

2011.03.17
丹波春秋

 「山は崩れて河を埋(うづ)み、海は傾きて陸地を浸せり。…渚漕ぐ船は波に漂ひ、道行く馬は足の立ち所を惑はす」。家や車、船までが瓦礫と共に流される映像を見ながら、800年余り前に鴨長明が描いた「方丈記」の一節を思い出した。▼東日本大地震のエネルギーは、阪神淡路の千倍以上にもなるという。まことに人間の営みなど、自然の前ではちっぽけではかない。かつて住んだ福島には知人もおり、馴染みある地名ばかり出て来て胸を締め付ける。▼過去の三陸地方の地震津波でも万単位の犠牲者を出したそうだが、今回決定的に違うのは、放射能という目に見えない恐怖を伴い、また東京という日本の心臓部をも脅かしているという点だ。▼豊かな生活を追求するため、必要なエネルギーを限りなく膨らませ、大規模で効率の良い装置に頼って慢心していた。その智恵をはるかにしのぐしっぺ返しに、我々誰しも気付いたが、今はただ、これ以上の状況悪化が全力で防がれるよう祈りつつ、注視するしかない。▼町中壊滅した海岸の町々はどう再建出来るだろうか。日本経済や財政はどうなるのか。この「国難」に一人ひとりどう立ち向かうか。戦後の大混乱を乗り切った頃より、我々はずっと年を取っているが、底力、そして絆の力はまだ残していると信じたい。(E)

 

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