新緑の美しい季節になった。震災で心が痛む今年は、新緑を楽しむ気持ちにおのずと自制がかかるものの、みずみずしく、精気ある緑は、心をわき立たせる。そんな感受性を備えた人というのは、自然に包まれて在る生命なのだと思う。▼にもかかわらず、かつて西洋では、自然は人間のために存在するという思想が支配的だったと言われる。自然は、人間よりも下位にあり、人間が制御すべきものとされた。制御する技術として自然科学が発達した。▼しかし、人間が自然を制御するとは、とんだ思いあがりだ。仏師の松久朋琳が、エベレスト登頂に成功し「エベレストを征服した」というのは、「シラミが頭のてっぺんに登って『はげ頭を征服した』といっているようなもので、叩き落される」とあざ笑ったように、人間が自然を征服するなどあり得ない。今回の震災は、そのことを私たちの骨身に叩き込んだ。▼土があり、森があり、水がある。そんな自然の恩恵を受けてはじめて生きられる私たち人間が、自然を制御するという考えは言うに及ばず、「自然との共生」などと唱えることすら身のほど知らずではないか。共生ではなく、私たちは自然に寄生している存在ではないのか。▼そんな思いがうずくせいか、今年の新緑を見る目はこれまでと異なる。(Y)