ルーマニアの元大統領、チャウシェスクが贅を尽くした「国民の館」なる宮殿を見物した際、ガイドが「我が国にはコマネチやドラキュラもいるけど、何てったって、彼が一番の有名人」と話した。▼現代史有数の独裁者も、観光資源の少ない同国にあっては、今ではこのような名所を遺した功績者かも知れぬ。その彼が逃亡に失敗し捕らえられた時は大いに歓迎されたが、2日後、ごく形式的な裁判だけで銃殺されたことには、国際世論は非難した。▼「東西冷戦」から「テロとの戦い」の時代となった四半世紀後の今、オサマ・ビンラディン容疑者が殺され、異例の水葬。米国政府は初めから、拘束は念頭に置いていなかったように見える。その名も「ジェロニモ」作戦。まるで西部劇だ。▼はしゃぐばかりのオバマ大統領。たとえ表向きでも「拘束できなかったのは遺憾」くらいは言ってほしかった。無論筆者はビンラディンの思想、行動に全く承服しかねるし、将来どう転んでも彼が功績者とはなり得ないが、しかしアラブ世界の本来は温厚な民衆に、いささかでも共鳴を与えている事実は知っている。▼単純だった前政権と少しも変わらない米国。この事件が同国のみならず自由世界全体に、経済的にも精神的にも一層の重圧となってのしかかってくることを恐れる。(E)