原発に向き合う

2011.07.09
丹波春秋

 お金をこつこつ貯め、やっとの思いで手に入れた製品。しかし、まもなく新製品が発売された。そんなとき、人は「新製品には欠陥がつきものだ」などと自らを納得させたりするものだ。そんな心の動きを、心理学では「認知的不協和」という。▼「自分の行動」と「周囲の現実」に不協和が生じた場合、人は、自分の行動を正当化しようと努める。具体的には、情報を無視したり、行動を正当化するのに有利な情報だけを集めたり、都合よく解釈を変えたりする。▼原発の問題にも、認知的不協和は適用できよう。湯水のように電力を消費し、快適な生活を満喫する。その電力は原発に負っていることを知っている。原発には危険性があることも承知している。しかし、原発の危険性に目を向け、原発に否定的になることは、自分の生活を真正面から問い直すことになる。▼その不協和を低減したり解消するため、原発の危険性に関する情報から遠ざかったり、原発は安全という考えによりかかろうとする。専門家にまかせておけばいいと、身を引いたりする。こうした傾向がこれまでなかったろうか。▼しかし、今回の福島原発事故は、不協和を解消する心の動きを吹き飛ばすほどに、原発の危険性をまざまざと示した。正面から原発に向き合わなければならない。(Y)

 

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