日本人は無宗教の民族ではないかという批判に対して、「日本の宗教はフルタイム宗教だ」と言ったのは篠山市出身の心理学者、河合隼雄氏だ。毎日「いただきます」「ごちそうさま」と言い、道端に小さな地蔵さんがあると、とっさにお祈りをする日本人には、日常化した宗教観があるとし、暮らしの中に宗教が根づいていると強調された。▼「草木国土、悉皆(しっかい)成仏」という言葉がある。これも日本人の宗教観を表わす言葉だ。その意味は、草も木も、生命を持たないはずの土や石も、すべてが仏性を持っており、成仏をするということ。日本人は古来、自分たちを取り巻く身近な自然の中にも神や仏の存在を感じてきた。▼しかし、合理主義や効率主義を重んじる近代化とともに、特有の宗教観は薄れていった。経済を優先するあまり、自然は、金銭的に価値ある産物を生み出す資源とみる風潮が強まり、自然をあがめる姿勢が崩れてきた。▼とはいえ、自然に霊性を感じる宗教観を根絶したわけではなさそうだ。桜を愛する心は今も受け継がれているからだ。▼一説によると、桜の「さ」は神様だという。「くら」は、神様のいる場所。桜には神様が宿っていると昔の日本人は考えてきた。さまざまな草木があるなかで桜を別格視するのは、そんな先祖からの遺伝子のゆえか。(Y)