今年のアカデミー作品賞の有力候補、「ブリッジ・オブ・スパイ」は1950年代、米ソの冷徹な冷戦下の時代、米国に逮捕されたソ連のスパイ、アベルと、国選弁護人ドノヴァンが裁判の準備を進めるうち、互いの人格に敵味方の壁を越えて惹かれあうという筋立て。▼敵を弁護するというだけで白い眼で見られ、家族まで嫌がらせを受ける中で、辣腕のドノヴァンは、死刑確実のところを懲役30年の判決を獲得するまで奮闘。やがてソ連領空で偵察飛行中に撃ち落とされ拘束された米軍飛行士と、アベルを交換する交渉役を米政府から頼まれ、国交のない東ベルリンへ不安定な民間人の身分で乗り込む。▼実際にあった話といい、東西ベルリンの壁の構築直後の厳冬期、いくつもの関門を乗り越えて境界の橋の上で捕虜交換が終わるまで、手に汗握る場面が続く。▼この映画と前後して観た「フランス組曲」では、パリ陥落後、ドイツに占領されたフランスの田舎町で、夫が出征中の妻がピアノを弾く礼儀正しいナチスの将校と命がけの恋に落ち、切なく劇的な別れの後、抵抗運動に加わってパリへ向かう。▼この映画も緊張しっ放しだったが、原作をアウシュビッツで死んだユダヤ人女性が秘かに書いていたと知り驚いた。人は国家の枠、縛りを越えて自由たり得るのか。(E)