あの木に出会いに

2016.04.30
未―コラム記者ノート

 「緑立つ」―。木々の新芽が萌え出た様子を表現した言葉だ。山々が若草色に染まり、ため息が出るほどの美しい季節が到来した。この季節がめぐって来るたび“あの木”のことを思い出す―。
 15年ほど前の初夏、篠山市東部の山の谷筋でイタヤカエデの巨樹に出会った。一つの株から幾本もの幹が天高く伸び出た、タコの干物を逆さにしたような、なんとも奇妙な樹形をしていた。樹勢は旺盛で、樹上を覆い尽くした新緑の若葉が、日の光を透過し、根元に腰かけていた私の体をうっすら黄緑色に染めあげた。そのときなんとも不思議な感覚を覚えた。その印象がいまでも強く残っている。
 この奇妙な樹形は、おそらく、その昔、炭や薪に利用するため、伐採された影響だろう。広葉樹は切り倒されても切り株から新しい芽を吹き出し再生する。こうした命のサイクルが何年にもわたり続いてきた結果、このような姿になったのだろう。
 自宅から車で約40分。さらに徒歩約2時間の山奥ではあるが、このゴールデンウイークに、10数年ぶりに出会いに行こうかな。(太治庄三)

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