数学者の藤原正彦氏は子どもの頃、父親から5つの禁則を教わったという。大勢で一人をやっつけること、強い者が弱い者をやっつけることなどだ。なぜ、してはいけないのか。父親の答えは明快だった。「卑怯だから」。
子どもの世界で卑怯の行為の典型は、いじめだろう。本紙前号で、いじめについて書かれた中学生の人権作文を掲載した。残念なことに、今もいじめは消えていないようだ。
藤原氏は、昔は陰湿ないじめが長く続くことはなかったという。いじめに対して制止効果を持つ「卑怯」という観念が道徳の中枢に位置していたからだ。しかし、藤原氏も嘆くように今や卑怯は中枢の座から降りた。
「子どもの頃はどんな子どうしでも仲良く一緒になれるはず」というのは幻想であるなどと説いた、社会学者・菅野仁氏の著書『友だち幻想』が話題を呼んだ。菅野氏は同書でいじめについてもふれ、「卑怯だから」という規範意識だけでは、いじめはなくならないとする。
「自分の身の安全を守るために、他者の身の安全をも守る」という実利主義的な考え方もある程度、学校にも導入すべきでは、とする。いじめられないために、友だちをいじめない。そんな考えを子どもたちが共有するよう導いてはと提案する。寂しいが、現実的な提案かもしれない。(Y)