日本遺産認定、ユネスコ創造都市ネットワーク加盟、そして、「丹波篠山市」への市名変更―。兵庫県の内陸部にある篠山市を内外にPRするため、近年、相次いで登場した”冠”たち。地域の活性化を狙い、外部から人を呼び込むための戦略だ。外に向かって、「丹波篠山」がこれまでにない輝きを放つ一方、足元に目を凝らすと、人口減少という暗い影が確実に広がっている。「もうすぐこの村はなくなる」―。そんな声さえ聞こえるのが実情。地方都市の光と影を探った。
「10年先、人がいるのは3軒ほど」
□負担重い役員■
山奥の袋小路にある、この村に住む80歳に手が届きそうな男性は毎日、崖の上にまつっている家の墓に参る。かつては松茸などの山の恵みで潤っていた村も、「10年先に人が残っている家いうたら3軒ほどとちゃうか」―。
篠山市内の旧小学校区の中で最も高齢化率の高い大芋地区(49・03%=昨年12月末現在)にある大藤自治会(大藤和人会長、11戸)。高齢化率は66・67%(昨年4月現在)。戦前生まれ、75歳以上が半数近くを占める。
河川沿いや公民館周辺の草刈り、ごみ拾いなどの環境整備は計年3回、行っているが、実働は5―6人。高齢者は軽作業にならざるをえない。
獣害対策として他の自治会なら市の補助金を利用して山すそにはりめぐらせている猪柵も、同自治会はとても管理ができないと設置していない。自身の田んぼや畑は網柵を取り付けるなどして個人で守るしかない。
課題の一つは役員の負担。市が自治会に依頼している役員は、会長をはじめ、衛生委員、交通委員、農政協力員、体育委員、人権のまちづくり推進員、男女共同参画推進員など多岐にわたる。それに加え自治会内では副会長や会計、さらには神社や寺の役などもある。3年ほど前からは交代することもなく、ほぼ固定している。
新しい考えが入ることもなく、こなすのがやっと。1人で2―3役を兼務するのは当たり前。上部組織から招集がかかるいくつもの会合に出るだけでも負担となる。欠席しがちになり、情報が入らない―という悪循環に陥る。
毎月の定例会で、高齢化する住民に市の施策をいくらかみくだいて説明しても反応は鈍い。村がさびれてきたという話は出ても、前向きな声が出てくる雰囲気はない。外部から人を呼んで活性化させ、祭りや運動会を復活させる―。そんな夢のような話を聞くたびに「もう無理や」と後ずさりする思いになる。
大藤会長(68)は、「市の施策は画一的。各自治会の事情に合うメニューがない」と言い、「外部から人を呼んで―といった大掛かりではなく、『隣の集落と交流してみては』といった身近な取り組みへの誘導があればやりやすい」と注文をつける。
最近は、「自治会合併」を口にするようになった。「風習や財産をどうするか―という話になると前に進まない。自治会の運営の部分だけでもサポートし合うようなイメージで、解決の糸口はないものか」と思いを巡らせる。
戸数7軒、事あるごとにミニパーティー
■受け入れる□
一方、大山地区にある石住自治会(竹田徳成会長)の戸数は7戸。70歳代の住民が多いものの20―30歳代の住む家庭が3軒、小学生以下の子どもも6人いる。
「活性化策」と言えるような事業はないが、新年会や地蔵盆、校区の運動会後など、事あるごとにバーベキューなどミニパーティーが始まる。
「7軒しかないことを受け入れている。そして、小さい村だからこそできることがある」と竹田会長(63)。若い世代が後に控えていることもあり、「しばらくは安泰」とほほ笑む。
草刈りや溝掃除などの日役は一軒でも欠けると、他の人にかかる負担の大きさが分かっているから、必ず代理を出席させる。役員も誰もが2つ、3つを兼務。“10年選手”も珍しくない。それも「しゃーないやん」と受け入れる。
みんながすぐに集まれるというメリットもある。何かする時は必ず女性を中心メンバーに据える。場が明るくなり、次はこんなことをしようと盛り上がる。身の丈に合ったささいな集まりから、日帰り旅行のアイデアが出て、2年に一度の恒例行事になった。
竹田会長は言う。「行政の補助に頼り、手続きに労力をとられるような大変な思いをしなくても、弁当と缶ビールを買って花見でもすれば、そこからきっと芽が出る。居心地よくしておけば、若い人も帰ってくる。村は高齢化しても、衰退はしない」。
活力ない自治会 自立求める市
□村をどうするか■
デメリットをメリットに変える―。石住のような例は少数派だ。
市自治会長会(森口久会長)は昨年8月、人口減少により様々な問題が生じている自治会運営について、今後の施策のヒントにしようと、問題が顕著に表れている15世帯以下を対象に「小規模自治会検討委員会」(山崎義博委員長)を設置。対象の28自治会のうち13自治会が参画している。
これまでに2回開催し、各自治会の現状と課題を出し合ったり、事務局の市が県の補助メニューを紹介するなどしたが、出席した自治会からは「うちならどうすればよいか、という個別具体の話をしてほしい」という要望が相次いだ。
市の担当課は、「自治会ごとに状況は違い、その一つひとつに合った施策を打つことはできない」とし、「『市がどうにかしてくれ』ではなくて、まずは自分たちの村をどうしたいかを考えるきっかけにしてほしい。その村のめざす姿に対してなら、どんなサポートができるかを考えることは可能」と、自治会との距離感を模索する。
今月、3回目の会合を予定しており、今後の方向性をまとめる予定。だが、すでに立ち上がるだけの活力を失った自治会と自立を求める事務局側―。議論は袋小路に入り込んでいる。