兵庫県丹波篠山市にある兵庫医科大学ささやま医療センター産婦人科の分娩休止問題にからみ、同市は、来年4月以降に出産する妊婦に対し、「出産支援金」として10万円を支給する方針を固めた。医大は来年3月末で分娩を休止する方針を示しており、市民に不安感が広がっていることや、市外の病院で出産する人が出る可能性が高いことから、経済的、精神的な不安の軽減を図ることを目的に掲げた。
このほど開かれた市議会本会議で「妊娠・出産包括支援事業」として約1770万円の補正予算を提案。あくまで新たな分娩体制が構築できるまでの「当面の間の措置」とした。
今年度の対象は、市に妊娠届を提出し、出産予定日が来年4月1日以降の人で、175人を見込んでいる。双子などの多胎児の場合は、5万円を追加する。市内には同センター以外に「タマル産婦人科」があるが、市内外どこで出産しても支給する。暫定的な措置ながら、新体制の構築には時間がかかるとみられ、2020年度の当初予算にも組み込む予定。
10万円という金額については、内閣府が妊婦を対象に行ったアンケート調査で、出産までにかかる費用(衣料費、ほ乳瓶代など)が平均6万6000円だったことに、市外の病院への通院費を加味した。
出産の準備費用を支援する制度は各地にあるが、養父市の3万円、静岡県伊豆市の4万円、石川県加賀市の1万円などと比べ、丹波篠山市の10万円は全国的に見ても高額の支援となるという。
また、市健康課内にある子育て世代包括支援センター「ふたば」に10月から「お産応援窓口」を新設。通常の業務に加え、日々雇用の助産師が、相談に応じて出産へのリスクが高い母親の自宅に出向き、産前、産後のケアを行う。分娩の先進国、ニュージーランドにあり、妊娠から出産まで同じ助産師が母親のケアに当たる「マイ助産師制度」のような運用を目指す。
同センターの分娩休止を巡っては今年5月、医大が産科医不足のため、「安全な分娩ができない」として休止の意向を示した。その後、市と協議を進めているが、市は、「中核病院である以上、分娩機能は必要」とし、議論は平行線をたどっている。
酒井隆明市長は丹波新聞社の取材に対し、支援策を決めた理由を、「休止を了解したわけではなく、継続の要望はこれからも続けていくが、今の議論では休止は避けられないと判断した」とし、「出産できる体制を築き、若い人の出産への意欲がなくならないようにしたい」と話した。
予算案は予算決算委員会に付託され、26日の本会議で採決される。
一部議員が修正動議を検討
出産支援金10万円の予算提案を受け、一部の市議が、26日の本会議で支援金を削除する動議の提出を検討している。
市議は、支援金について「ばらまきにあたる」とし、「医療センターの運営には市が年間1億2000万円以上を支出している。分娩休止による支援はそこから捻出すべきではないか。本来、市ではなく、医大側が負担すべきお金では」と指摘している。