年末を迎え、各地の神社では、迎春準備が進んでいる。神社の鳥居や拝殿に飾られ、門松と並んで正月ムードを演出する神祭具に「しめ縄」があるが、少しずつ、天然の稲わらから合成繊維(合繊)のものに変わりつつある。材料の稲わら、特に太くて長いわらの調達が難しくなっていることや、しめ縄をなう技術を持つ人が少なくなったことが要因。手間とコストを考えた時に、初期費用はかかるが、複数年掲げたままにできる合繊のしめ縄が存在感を増しつつある。
◆コンバインはわら裁断
しめ縄は神をまつる神聖な場所であることを示す意味があり、各神社の氏子らが奉納する。
かつては手で稲を刈り取り、稲木にかけて干すことが多かったため、しめ縄用のわらの確保も容易だった。しかし、現在ではコンバインが主流。刈り取りと同時にわらを裁断するため、長いわらが手に入りにくくなった。
また、しめ縄をなう技術を持った人も少なくなった。家庭用のしめ縄はなえても、神社の鳥居などに使う太いしめ縄は、さらに技術が要る。
今も稲わらでしめ縄を作る集落もあるが、「氏子が集まってなう」「なうのが得意な氏子に奉納してもらう」「外注・購入する」―のいずれも手配、段取りが必要。この作業を毎年繰り返すよりは、長持ちし、労力面の負担が少ない合繊が選ばれるケースが全国的に増えている。
◆氏子高齢化、重いしめ縄困難
兵庫県の農村部、丹波篠山市内も同様で、神職が常駐している本務社でも合繊のしめ縄が増えてきた。
宮司からは、「以前は氏子さんたちに作ってもらっていたが、高齢化で高いところに重いしめ縄を掲げるのが難しくなった」「稲わらは毎年のように交換しなければならない。わらの価格も高騰しているので、お金と労力を考えれば合繊はさらに増えていくだろう」などの声が聞こえる。また、「数年間飾っている稲わらのしめ縄よりも合繊のほうが見栄えがいい」という声もあった。
合繊のしめ縄は、神祭具を扱う専門業者から取り寄せているところが多い。ある業者のカタログによると、直径10センチ、長さ4メートルで税込み8万円ほど。太いほど値が張り、防色など加工がされた製品はさらに高くなる。
同県丹波市内で神祭具を扱う「大仏堂」によると、合繊のしめ縄は、「年間10件とまでは言わないが、問い合わせがある」という。実際に設置に至るのは多い年で2社ほどだが、検討している氏子は多く、どこも同じ悩みを抱えていることがうかがえるという。
◆「村の『伝統』継承を」
一方、丹波篠山市の磯宮八幡神社では、今年も氏子らが稲わらのしめ縄を作って奉納した。
畑尾芳彦宮司は、「合繊の方が長持ちするし、さまざまな事情もわかる。けれど、しめ縄作りは村の『伝統』でもある。これからも後継者を作りながら続けていただきたい」と話した。
また、同市般若寺自治会では、毎年、「当番隣保」を決め、隣保内の農家が自身の田からわらを用意する。
かつては当番隣保だけで集落の八幡神社に掲げるしめ縄を作ってきたが、近年では、2つの隣保で1つの組を作り、さらに自治会の役員も協力。住民は、「小さいもので、見様見真似で作っている」と言い、「伝統行事として継承している。いつまでできるかわからないけれど」と笑う。