田んぼが”真っ赤”に 正体はアカウキクサ 市「景観上問題あり」

2020.05.24
ニュース自然

「アカウキクサ」が繁茂し、真っ赤に染まった田んぼ=2020年5月12日午後3時33分、兵庫県丹波篠山市内で

田植えがほぼ終わった兵庫県丹波篠山市内で車を走らせていると、異様な光景を見つけた。一面に錆びた鉄をまいたように赤茶けている田んぼ。植えられたばかりの苗は「赤土」にも似た水面から弱々しく顔をのぞかせている。正体はシダ植物の「アカウキクサ」。在来、外来の両種があり、在来は希少種で保護対象だが、ほとんどの場合は外来という。市は外来種について、景観上の問題や農作業への影響から駆除の施策が必要かどうか、検討を進めている。大きな害はないものの、厄介な面もあるようだ。

 アカウキクサは繁茂しても突然、消失する場合がある。稲の成長自体にも大きな害がないとされるが、市によると、風で流れて大きな固まりになったアカウキクサが植えたばかりの苗を倒してしまうことがあり、最悪の場合、全面植え替えになるケースもあるという。
 また、アカウキクサの中でも特定外来生物に指定されている種類「アゾラ・クリスタータ」(アメリカオオアカウキクサ)であれば、法律上は、「移動させてはならない」もの。作業したトラクターなどに付着して拡散することが知られているため、繁茂している田で作業した場合、除去しなければならず、農家にとっては大きな手間となる。
 市は、「せっかく自然豊かな農村を観光資源にしている丹波篠山市で、”真っ赤な田んぼ”は景観上、課題がある」とし、さらに「大規模農家などが作業受託する際、特定外来のアカウキクサだった場合は作業量が増えることから、繁茂した田を敬遠する可能性があるなど、担い手の面でも問題がある」とする。

アカウキクサ。外来か、特定外来かは不明

「アゾラ―」は、主に1990年代に有機農法として注目された「アイガモ農法」に伴って、カモのエサとして持ち込まれたが、急速に拡大し、在来種を駆逐する恐れがあることから、2005年に外来生物法で特定外来生物に指定されている。

 一方、葉に共生する藻類が植物の成長を促すことから、そのまま土にすきこむ「緑肥」として使用する地域もあるほか、「特定外来」でないものは現在でもアイガモ農法で使用する農家があるなど、有益な面もある。
 日本在来のアカウキクサは急速に生息域を狭め、現在は絶滅危惧種に指定されている。
 市内には「アゾラ―」のほか、外来種同士の交雑種なども生息するとみられるが、見た目での判別は難しいという。
 市は昨年度、「多面的機能支払交付金事業」に取り組む200集落に対し、市内のアカウキクサの現状を初めて調査。回答があった67集落の状況では、21集落97のほ場でアカウキクサの発生を確認した。
 残る46集落では発生していなかったが、回答率が3割程度であることを考えると、現状はさらに多く発生しているとみられる。過去の調査がないため、増えているかどうかは分からないという。
 今年度は、アカウキクサも含めて外来種の分布状況を調べ、農家が駆除したい意向を持っているのか、営農上で問題があるのか、などについて調査する。
 田代優秋・市農都環境政策官は、「赤い田んぼは景観上、問題がある。農機具に付着したり、鳥が運んだりして拡大するほか、水路を通じて川に入った場合は、下流で取水した際にまぎれこむこともある。加古川や武庫川などの最上流域のまちとして、下流に広がっていくのは避けたい」とし、「農薬の効果は分かっているが、生物多様性の観点からは、薬が他の生き物に影響することも考えられる。農家が困っているのかなど、意向を踏まえながら、今後、対応を検討していきたい」とした。
 アカウキクサ研究の第一人者で、県立人と自然の博物館の鈴木武研究員は、「毒性があるわけではないし、農業に役立つ側面もある。ただ、赤い田んぼは見慣れない風景で、景観上、見栄えが悪いのは確か」とする。
 今年になってアカウキクサが発生した田の持ち主は、「去年は近所の田んぼに入っていたので、『そろそろ来るやろうな』と思っていたところ。端の方を駆除してみたが、どんどん生えてくるので仕方がない。今は見守るしかない」と話している。

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