謎の”貴公子”躍動 平維盛描くファンタジー 小説「鯨が飛んだ日」

2021.03.04
ニュース地域歴史

小説「鯨が飛んだ日」の本を手にする平野さん=2021年1月29日午後2時25分、兵庫県丹波市柏原町柏原で

出版業の「あうん社」代表で著述業の平野隆彰さん(72)=兵庫県丹波市=が、平安時代末期の平家一門の武将、平維盛を主人公にし、「平家物語」の裏面を描いた小説「鯨が飛んだ日―平維盛即身成仏物語」を書き、同社から発行した。維盛と同時代を生きた「方丈記」の作者、鴨長明が語り部となって、維盛のたどった運命をあぶり出すという筋立て。「史実に基づきながら創作の手を加えた小説。勝者の視点に立って書かれる歴史物語をひっくり返した歴史ファンタジーです」と話している。

維盛は平清盛の孫で、平重盛の嫡男。光源氏の再来と称されたほどの美貌の貴公子とされる。富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦いで敗北。熊野の海で入水(じゅすい)したと伝えられ、享年26歳で亡くなったとされる。しかし、熊野には維盛の生存伝説が残り、子孫もいるなど、その死については謎に包まれている。

同小説は、維盛は入水自殺をしていないという視点に立って物語をつむいだ。維盛に親しい僧侶が、維盛を源氏の手から守るために、入水自殺をしたという偽りの話を作り、流布させたということが小説の冒頭で明かされる。僧侶はまた、維盛の足跡について鴨長明に書いてほしいと依頼。維盛について知る者を長明に引き合わせ、語って聞かせる。

小説の中では、維盛を慕う若き漁師が操るクジラの大群が、平家を裏切り壇ノ浦に向かう熊野水軍を蹴散らすシーンが圧巻。最後は、維盛らの一行が、釈迦の生まれた天竺を目指し、大海原に乗り出すというシーンで締めている。

昨年2月から8カ月ほどかけて書き上げた。

平野さんはこれまで「シャープを創った男 早川徳次伝」「穴太の石積」「僧侶入門」など多数の著書を出している。

同書は1500円(税別)。46判サイズ、264ページ。アマゾンで販売。書店で注文もできる。

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