米育て酒醸す「醸造家」 ルーツで開業、海外展開へ 「世界に魅力発信を」

2022.03.12
地域

足立農醸の第1弾商品「KOYOI」を手にする足立洋二代表=2022年3月4日午後零時39分、兵庫県丹波市市島町中竹田で

兵庫県丹波市青垣町にルーツがあり、青森県八戸市の蔵元で蔵人として醸造技術を学んだ足立洋二さん(31)=丹波市=が、醸造家として独立し、「足立農醸」の屋号で起業した。自ら栽培したコシヒカリを八戸で委託醸造した清酒を、第1弾商品として販売を始めた。マスカットのような香りで、穏やかな甘味のある口当たり。国内で販路を拡大しつつ、輸出の商談もまとめた。「ワイングラスで楽しむ酒として、世界に日本酒の魅力を発信したい」と夢を膨らませている。

足立さんは、大阪市福島区出身。本籍が青垣町。4代ほど前まで青垣で、祖母も青垣出身のようだという。現在は、米栽培を学ぶため西山酒造場(同県市島町中竹田)で勤務しており、来年、大阪府高槻市に醸造所を開く予定。

日本酒との出合いは、アメリカのテキサス。競泳の強豪選手で、高校卒業後、留学。環境に順応できず21歳で競技から離れた。アルバイト先の日本食レストランで、日本酒が高く評価されていることを知り、衝撃を受けた。和食と日本酒の組み合わせなど、現地でできる限りの勉強をし、本格的に学ぼうと25歳で帰国。知人の紹介で、銘酒「陸奥八仙」で知られる八戸酒造に就職。2021年の「世界酒蔵ランキング」1位に輝いた、海外発信に熱心な蔵で、蔵人の仕事のほか、語学力を買われ、海外営業などを担当した。

「30歳で独立」の思いを抱く中、2018年ごろから始まった、日本酒業界に吹き込んだ新風「クラフトサケ」の動きに刺激を受けた。また、政府の奨励で、輸出用清酒が製造しやすくなった。「自分は海外が合う」と、海外に自身の日本酒を広めようと、3年半勤務した蔵を退職し、昨年1月に「足立農醸」を立ち上げた。

自ら栽培した原料米で醸して売る、一貫したストーリーを大切にしたいと考え、八戸酒造で経験できなかった米栽培に携われる蔵元を出身地の大阪近辺で探し、西山酒造場が快く受け入れてくれた。

「KOYOI」の原料米コシヒカリの栽培に借りたほ場。荒れた田24アールを復田、獣害とも闘った(足立さん提供)

昨年、同社が数年耕作していないほ場を借り、復田。周囲に教わりながら慣行農法で栽培したコシヒカリで仕込んだのが、販売中の清酒「KOYOI」(720ミリリットル、3960円)。

「飲みやすく、すっきり。かつ、香りは華やかで切れがある。酵母をブレンドし、狙い通りの日本酒が仕込めた」と足立さん。有給休暇を取り、八戸酒造に出向いて仕込み、搾った。

「今宵」「小酔い」の意味を持たせている。アルコール度数は13度で、飲みやすさと低アルコールの時流を意識し、一般的な清酒より低くした。ゆくゆくはスイスに醸造所を持つ夢があり、現地で入手できそうなコシヒカリを原料米に使った。大吟醸酒は50%以下の精米など、一般的に原料米は磨くほど香り高く、フルーティーな酒になるとされるが、「KOYOI」は、80%精米と2割磨きにとどめている。「しんどい思いをして育てた米を、磨いて米ぬかにするのはもったいない」

今秋の醸造に向け、土づくりを始めている。西山酒造場の商品の原料米栽培も任されている。

「蔵人でありながら、自分の商品を売るという働き方を受け入れてもらい、農業の勉強までさせてもらえ、西山酒造場の皆さんに感謝している。自分のルーツの丹波に来たのはたまたまだけれど、縁を感じる。人の縁を大切に、世界で通用するお酒を造り、世界に日本酒文化を伝えたい」と思いを語った。

【クラフトサケ】米、米こうじとは別に、果物や野菜、ホップ、ハーブなどの副原料を加えた「その他醸造酒」。「清酒」ではない。年間の最低製造量が60キロリットルと製造免許取得のハードルが高い「清酒」と異なり、6キロリットルで免許が取得できる。小規模、軽設備で醸造所開業ができ、蔵人が独立開業する道が開け、日本酒業界に新規参入する20代、30代の若者が現れている。始まったばかりの動きで、全国的に数は少なく、兵庫県、大阪府、京都府にクラフトサケの醸造所はない。

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