出産を「良い体験」に 初産婦は80%超利用 市独自「My助産師」の今

2022.05.18
地域

出産後、My助産師と会話する親子。何気ない会話もケアになる=兵庫県丹波篠山市網掛で

1人の助産師が「My助産師」として、妊娠から出産、育児まで継続して女性や家族に寄り添う兵庫県丹波篠山市独自の妊産婦ケア事業「My助産師ステーション」が開設から1年9カ月となった。妊産婦の利用率は70%を超えており、初産婦では80%超が利用。利用した人からは、「いつでもどんなことでも相談できて、本当に助かった」などの声が上がり、助産師らは、「妊娠期から関わることで信頼関係ができている。My助産師のケアが『普通』になるようにしていきたい」と話す。自治体レベルで全国初の取り組みが地域に浸透し始めている。

My助産師は”お産の先進国”ニュージーランドなどにあり、女性の妊娠から出産、産後まで同じ助産師が寄り添い、継続してケアに当たる制度。切れ目のない継続的なケアを提供することで、早産や死産、異常分娩が減少することが複数の研究で確認されているという。丹波篠山市のMy助産師は、妊婦健診や分娩などは行わないものの、自治体レベルでは全国で初めて制度化した。

対象は市内全ての妊産婦で、ハイリスク、ローリスクを問わない。課題があってもなくても、よりよい出産と育児を支える。希望する人は母子健康手帳の交付時に妊婦の担当助産師を決定。分娩する医療機関の場所に関係なく、▽交付時の初回相談▽妊娠中期と後期に1回ずつの産前ケア▽産後2週間から1カ月ごろの産後ケアと赤ちゃん訪問―の最低4回、妊産婦と関わる。

ほかにも月に1度、赤ちゃんを迎えるための準備教室「バースサロン」や「パパママ教室」も開いている。自治体としては先駆的な取り組みで、2021年度、兵庫県版マイ助産師事業のモデル市町にもなっている。妊婦健診などはそれぞれ医療機関で受けるほか、必要に応じて医療機関や保健師、栄養士とも連携を取りながら妊産婦をサポートする。

ケアは担当助産師が妊産婦と信頼関係を構築しながら、産前産後の体調管理や、食べ物・運動を通した安産に向けての体作りのほか、「家庭でどんな準備が必要か」「パパはどうやって育児に参加すればいいか」など、意識の面などあらゆる相談に時間をかけて乗っている。

一昨年8月の開所後、今年3月までの利用率は395人の妊産婦のうち282人で71・4%。初産婦では約8割が、第2子以降の経産婦では約6割が利用している。ケアを受けた女性が次の子どもを妊娠し、再び制度を利用するケースも出始めている。

第1子を出産した女性(33)は、「病院では毎回担当が違っているので、『この人』と決まっていると、とても安心感がある」と言い、「親や友だちに聞きにくいことでも聞ける。また妊娠したら絶対利用する」とほほ笑む。

同じく第1子を出産した女性(32)は移住者。「My助産師は知らなかったけれど、移住直後で近くに知り合いがおらず、『困ったらいつでも電話してね』と言われて本当に助かった」と言い、「つわりがきつくてつらかったときも優しく声を掛けてもらい、お母さんみたいでした」と喜ぶ。

このほか、「何かあったらネットで何でも検索しがち。やっぱり専門家のアドバイスのほうが安心できた」という声もあった。

メインで担当している助産師は細見直美さん、辻井永恵さん、成瀬郁さんの3人。

細見さんは、「お母さんたちとの距離が近く、お父さんとも関わる機会が増えた」と言い、「病院で勤務していたころはこんなに深く関わることがなかった。悩むこともあるけれど、楽しく仕事をさせてもらっている」とほほ笑む。

辻井さんは、「健診は病院できちんとされているので、私たちは話をして一緒に考えるといった感じ。その分、出産されたときの思い入れは深い」と言い、「出産された方が、産後、きらきら輝いて見えるくらい美しくなられた。これも妊娠中から知っていたからこそ。役得というか、貴重な経験をさせてもらった」と喜ぶ。

成瀬さんは、「経産婦の方であっても、話を聞くと1人目の時に血圧が高くなったり、体重が増え過ぎたりした人もおられて、『そうならないために考えていきましょう』と取り組んでいる。お産は病気ではなくて、生活の中の工夫で正常に臨めるということが実感できている」と言い、「問題はないし、ケアもいらないという人がいるかもしれないけれど、主体的に自分の体に向き合うきっかけとして利用してもらえたら。助産師はその人の力を引き出すことが役割。出産を少しでも良い体験にし、子育ても楽しめるよう力になりたい」と話している。

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