「夢を応援しよう」 クリエイターが母校にプレゼント 児童描いた夢を校舎に投影

2023.03.09
地域

後輩たちを前に、「夢をかなえる方法」を語る谷田さん=兵庫県丹波篠山市東浜谷で

兵庫県丹波篠山市西岡屋出身で、映像クリエイターや企画・演出家の谷田光晴さん(42)がこのほど、母校の岡野小学校を訪問した。谷田さんは、2017年に発売されたゲーム機「ニンテンドースイッチ」の発売記念イベントの演出を担当し、世界中で300万人以上が映像を視聴したほか、昨年は世界的ミュージシャン・坂本龍一さんのコンサートの世界配信を担当するなど、国内外を舞台に手腕を発揮している。谷田さんが、後輩たちに素敵な「ギフト」をプレゼントするまでを追った。

学生時代から、映像クリエイターとして音楽イベントの映像演出を中心に活躍。その後、入社した企業でプロジェクションマッピングを使った映像作品を多数手掛けた。

2014年に独立し、株式会社「SPOON」を設立。現在は東京と大阪に拠点を置き、映像技術に精通した企画家・演出家として多くの企業のプロモーション事業を展開するなどしている。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の特別招聘教授も務める。

谷田さんは、既存の概念を覆す仕事を展開。大阪・道頓堀にある「6代目グリコサイン」の映像コンテンツの企画・制作と点灯式の総合演出を担ったほか、東京ドームシティにあり、宇宙空間を見下ろす体験ができる「宇宙ミュージアムTeNQ・シアター宙」のコンセプト設計・監修・総合監督を担当した。

また、ミュージシャンの演奏を、デジタル著作権管理に対応し、業界史上最高レベルの音質で有料配信する事業「MUSIC/SLASH」では、坂本龍一さんのほか、山下達郎さん、竹内まりやさん、藤井風さんらの配信を行うなど、エンターテインメント業界の未来を切り開く活動も行っている。

2月、谷田さんは母が学校運営協議会に参加していることが縁で、母校を訪問。「夢をかなえる方法」をテーマに講演した。

後輩たちを前に、小、中、高校、大学で、ミュージシャンや料理人、教師など、夢が変わっていったことを紹介。成長に伴って考え方や好きなこと、視野が広がることを伝え、「変わってもいいし、変わらなくてもいい」と優しく語り掛けた。

また、「好きなことなら頑張れるし、諦めなければ絶対に夢はかなう」とした上で、〝夢をかなえる秘訣〟を伝授。「頑張っている人がいたら邪魔をするのではなく、その夢を応援してあげよう。そうしたら、友だちも自分の夢を応援してくれる。応援してもらえたら、もっと頑張ろうと思える」と言い、「コロナ禍もあって、自分も不安なときがあったけれど、いろんな仲間が応援してくれた。それは自分がみんなの夢を応援してきたから」と説明した。

そして、「岡野っ子はみんなの夢をみんなで応援しよう」と呼び掛け、「この中から将来、一緒に仕事をするような人が出て来てくれたらうれしい」とほほ笑んだ。

先輩の活躍に目を輝かせていた児童たち。谷田さんは最後にサプライズプレゼントを告知した。「みんなが書いた自分の夢をプロジェクションマッピングで校舎に映そう!」

プロジェクションマッピングで児童たちが描いた夢が映し出される校舎=兵庫県丹波篠山市東浜谷で

谷田さんが用意したプレゼントは、全校児童が描いた「将来の夢」の絵を、プロジェクションマッピングを使って校舎に映し出す企画。児童たちは画用紙の中に、精いっぱい夢を描き、谷田さんのもとへ送った。

迎えた3月1日夜。校庭に集まった児童や保護者、地域の人などを前に、谷田さんが言葉を投げ掛ける。

「子どもたちは、僕たちが知らない時代を生きていくことになります。そんなときに、自分を支える大きな力になるのは、『これをやってみたい』と思う強い気持ち。どんな時代になっても、それを持ち続けることができれば必ず未来は開けます。みんなが一生懸命描いてくれた素敵な夢に『頑張れ!』と言ってあげてください。それでは、夢プロジェクションマッピングのスタートです」

お寿司屋さんに花屋さん、消防士、競歩選手、ユーチューバー、ウェディングプランナー、今はまだ決まっていないけれど、いろんなことがしたい―。色とりどりの夢が校舎に映し出されていく。その一つひとつを谷田さんが紹介し、児童も保護者も地域の人も、みんなで「頑張れー」とエールを送る。少し肌寒い夜の校庭が温かい空気に包まれていった。

谷田さんは、「目指したいことがあっても、世の中がそれを許さないような空気もある中、みんなが自分のやりたいことを表現してくれたことがうれしい。恥ずかしい子もいたかもしれないけれど、よく頑張ってくれました」と目を細めた。

同校には、児童たちが大切にしている「岡野っ子憲法」がある。▽いつも元気にあいさつしよう▽身のまわりを美しくしよう▽やさしい気持ちを持ち、みんな仲良くしよう―。“制定”したのは30年前の児童会。当時の会長が谷田さんだ。

「30年たった今、同級生たちと作った岡野っ子憲法に、『みんなの夢を応援し合える子になろう』ということを追加したような気分」と言い、「自分の母校は岡野小学校、生まれ育ったのは丹波篠山市と、胸を張って言えるようになってくれたらうれしいです」と、しみじみと語った。

精いっぱい夢を描いた児童たち

後輩たちに贈られたギフトは、プロジェクションマッピングだけではなく、大人になった元児童会長からの新たな“憲法”だった。

現児童会長の谷田真央さんは、絵本作家になるという夢を描いた。「自分の夢を人に言ったことがなかったので、ちょっと恥ずかしかったけれど、みんなも描くし、『やっちゃえ』と。みんなの夢も知ることができて、とても楽しかった」とにっこり。そして、「応援してもらうことで、これまでよりも夢に向かうやる気が出た。応援することで自分もみんなも夢がかなうというのは本当だと思う」とうなずいた。

細見康彦校長は、「出身の方からの言葉に、子どもたちはとても影響を受けたよう。先輩が学校にとっての“財産”だと、改めて気付かされました」と感謝していた。

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