兵庫県丹波篠山市で22―24日に開かれた「第45回全国伝統的建造物群保存地区協議会(伝建協)総会・研修会 丹波篠山市大会」の中で、菅義偉前首相による特別講演が行われた。菅氏は官房長官時代の2016年に古民家改修の取り組みなどを視察するため、集落丸山や篠山城跡、河原町などを訪問。17年には国の景観まちづくり刷新支援事業のモデル地区として丹波篠山を選定し、河原町通りの無電柱化などが行われた。これらの縁で講演を引き受け、関係者や一般参加の住民ら計500人が耳を傾けた。要旨をまとめた。
7年ぶりにやってきたが、まず電柱がなくなっていて良かった。
地方の活力なくして国の活力はない。これが私の地方創生に対する基本的な考え方。首都圏の消費額は3割で、7割は地方。地方が元気になって消費が活発にならないと、日本全体は良くならない。
地方は少子高齢化、過疎化が進んでいるが、田舎にしかない里山の風景や地域の祭り、おじいちゃん、おばあちゃんの交流、そこでしかない感動があることも事実だ。伝統的建造物など歴史、文化が多数残っており、各地の素晴らしい町並みや景観を未来につなぎたい。
2012年、外国人観光客はわずか836万人だった。私は、1000万人を超えている韓国や2000万人を超えているタイや香港と大きく引き離されていることを疑問に思った。
日本は、自然、気候、文化、食という観光振興に必要な4つの条件を兼ね備え、高いポテンシャルがあると確信していた。課題を検討する中で、全国各地に特色や歴史的な資源が眠っていることを知った。これらを国内外の人に広く伝えていくことが真の地方創生に役立つのではないかと考えた。
その中で丹波篠山市の集落丸山を視察。そこでは地域の人と専門家が一体となって古民家再生による観光まちづくりに取り組まれていた。結果、耕作放棄地が解消され、過疎化していた集落が一変し、活気がよみがえった。
元気な地方には必ず豊かな発想を持ち、中心になって引っ張る人がいることも認識した。意欲ある人を支えるために、専門家を派遣し、各省の職員も一体となって観光まちづくりを進めるため、官民連携のチームを新設した。
まだまだ文化財の保存から活用へと、一層力を入れることが必要だ。文化財保護、観光の縦割りをやめ、これまで以上に関係者が連携し、文化財を活用し、その収益を活用して保護に取り組むという好循環が生まれることに期待している。
政権交代前に1兆800億円だったインバウンド(外国人観光客)の消費額は、2019年に4兆8000億円にまでなった。外国人観光客8人で、定住人口1人分の消費を生み出す。インバウンドは人口が減少する地方の切り札になり得る。
ふるさと納税は10年前に年間100億円だったが、昨年は9500億円ほどだったといわれている。
また、地方の活力を作るために農林水産物の輸出に力を入れ、当時4500億円だったが、昨年は1兆円を超えた。
これらは客観的で、将来に可能性のある数字だ。
コロナも5類に移行し、かつての日常が戻ってきた。今年はインバウンド再始動の年。2025年には万博が開催される。そうした機会も見据えて、今こそ、ノウハウを共有し、高め合っていく必要がある。
価値のあるものを創出し、ファンをつくり、しっかり稼ぎ、地域を発展させていく。政府一丸となって、官民連携することで、必ずや地方創生、日本経済の再生につながると思っている。
丹波篠山はこれからも大いに期待できると思っている。ぜひ全国の皆さんもそれぞれの地域の中で競争しながらまちづくりを進めてもらうことを祈っている。
◆菅氏の来場で厳重な警備体制
4月に岸田文雄首相が演説会場の和歌山市で襲撃された事件などを踏まえ、田園交響ホールに菅氏が来場するとあって、会場は厳重な警備体制が敷かれた。
ホール玄関には空港さながらの金属探知機が設置され、来場者の手荷物などもチェックされた。また、菅氏の講演中も壇上や会場内で警察らが不審な動きをする人がいないか目を光らせた。
壇上に上がった4人の警備は、防弾・防刃仕様と思われるかばんを手にしていた。
混乱はなく、来場した人々は、「えらいことやなあ」などと目を丸くしていた。