消えた子授け地蔵 2年過ぎ「一度返して」 住民ら理解示しつつ「寂しい」

2023.06.22
地域歴史

地蔵がいなくなった祠。2年が過ぎ、地元住民らは「一度お返し下さい」と呼びかけている=兵庫県丹波篠山市川原で

兵庫県丹波篠山市川原地区にあり、自宅に持ち帰ってよく、願い通り子を授かれば元の場所に戻すという「子授け地蔵」。その存在を本紙が2020年11月に報じた後、数十年ぶりに子宝を望む人のもとに“出張”に出たとみられるが、丸2年が過ぎた今も戻っていない。“返却期限”があるわけではないが、地元住民らは、「子授けには時間がかかることもあるからなあ」と理解を示しつつ、「あまりに長い間おられないのは寂しい」と、祠の横に看板を立て、「一度お返し下さい。お願いします」と呼びかけている。

住民によると、21年4月に用水路の清掃作業を行った際、地蔵がいなくなっていることに気が付いた。それまでに地蔵が消えたのは、住民が記憶している限り、数十年前。当時は、気が付くと元の場所に戻っていたと言い、どれほどの期間いなくなっていたかは定かではない。

近くに暮らす森田忠さん(71)は、「子どもを授かるには3年、5年とかかることもある。自治会の集会でも『まだできとってないんやろなあ』と話している」と言い、「ただ、他にも授かりたい人がおられるかもしれないし、お地蔵さんがちゃんとどこかにおられるのか心配。お地蔵さんの姿を見たら安心するので、とりあえず、お持ちの方は一度、返してほしい」とし、その上で、「しばらくして、また持ち帰ってもらってもいいし、私たちも誰だったかなどは詮索しないので」と話す。

20年に撮影した子授け地蔵

地蔵は赤い前掛けなどが施された高さ40センチほどの石で、地蔵と名がつくものの顔はない。この地蔵のことが記された史料はなく、住民の間で脈々と伝えられてきた。

御利益が本当にあるのかどうかは不明。持ち帰るときは誰にも言わなくてよく、住民も「誰だったのか」などと詮索しないことから、持ち帰った結果がどうだったのかという話にすらないからだ。

20年に本紙が報じた際、地蔵のことを教えてくれた地域の古老は、「お地蔵さんが戻ってきたということは、どこかで赤ちゃんができたということやと思う。それだけでうれしいし、戻りが遅いときには、早く子どもができたらなあと祈る。優しい文化やなあと思いますわ」と目を細め、元に戻さなかった場合は、「罰があるかどうかも分からんけれど、持ち帰った人の良心がさいなまれるやろな。それが一番の罰かも知れん。もしも子どもができんかったとしても、地蔵は元の場所に返すことになるやろなあ」と話していた。

本紙の一報はヤフーニュースのトピックスにも採用され、市内外の多くの人に存在が知られた。

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