復活「お化け屋敷」 家族一座の使命感 コロナ禍で一時興行ゼロも

2023.08.11
地域歴史注目観光

お化け屋敷復活―。コロナ禍を経て、5年ぶりの地元興行に向けて準備を進めている細見さんら=兵庫県丹波篠山市鷲尾で

兵庫県丹波篠山市を拠点に全国各地の祭りを巡る珍しい「移動式お化け屋敷」の一座がある。「怖いよ~」「いらっしゃい~、いらっしゃい~」―。怖さを全く感じさせない笑顔のご夫婦の呼び込みと、「ドンドンドンドンドン」という太鼓の音、「キャー」という悲鳴。全国を旅しながら祭りに彩りを添えてきた。コロナ禍で興行がゼロになった年もあったが、「この文化をなくしてはならない」という矜持で乗り越え、今夏、ついに各地で祭りが復活。あの恐怖と笑いも帰ってきた。

手がけるのは、同市鷲尾の「三好興行」。60年以上続く、全国でも珍しい移動式お化け屋敷で、〝名物〟と言っても過言でない呼び込みをしているのは代表の細見孝志さん(72)と妻のしなえさん(72)。長男の孝成さん(49)と二男の均さん(45)らがお化けに扮し、闇の中で客を待ち受ける、家族ぐるみの一座だ。

もともと木下大サーカスに所属していたしなえさんの両親が営んでいた「三好サーカス」が前身。戦後、テレビの普及によってサーカスも放映されるようになり、客足が鈍ったことを受け、昭和30年代から、小さな町の祭りに出向くなどの小回りが効き、テレビとも関係ないお化け屋敷に業態転換した。

全国各地を巡っている三好興行の移動式お化け屋敷。地元の祭りではすっかり名物=2014年、兵庫県丹波篠山市北新町で

「絵が得意」という理由で一座を手伝っていた孝志さんと、しなえさんが結婚。成長した子どもたちと共に北は北海道、南は九州まで全国の祭りを渡り歩き、各地で恐怖と爽快感を提供し続けてきた。

例年、年間30カ所以上を巡ってきたが、コロナ禍が各地の祭りを直撃。感染拡大防止を理由に瞬く間にイベントが中止になった。2020年や21年は興行がゼロに。アルバイトや銀行からの借り入れでしのいだ。

孝志さんは、「ようやくぽつりぽつりと祭りが戻ってきたけれど、もともと雨が降ったら一気に客足が遠のくし、年間を通しても『ちょっと黒字で良かったね』という程度。コロナ禍が来た時は、自殺しそうになりましたわ」と豪快に笑う。

それでも「廃業」の二文字は一度も脳裏に浮かばなかったそう。「たこ焼きに金魚すくい、そして、お化け屋敷。夜店は祭りの彩りで、伝統文化でもある。それと、お祭りが終わった後に一瞬で町が日常に戻る瞬間。こういうものを大切に残していきたいという使命感というんですかね。それに自分たちにはこれしかない」

新型コロナが感染症法上の5類に移行し、イベントが戻ってきた今年。興行も7月末までで全国約20カ所を巡るなど、以前の勢いを取り戻しつつある。

均さんは、「どこへ行っても皆さん喜んでくださるんです。以前はしゃべってこられなかったような近所の人も『戻ってきたね』『また来年も来てね』と声をかけてくれる。当たり前にあったけれど、なくなると寂しいもの。そんなふうに思ってもらっているのかもしれません」としみじみ。驚かす側が、人々の何げない、でも温かい言葉に驚かされたと振り返る。

15、16日には地元で「丹波篠山デカンショ祭」が4年ぶりに開催される。やぐらを囲む総踊りと夜空を焦がす花火。そして、多くの人の記憶に焼き付いているのが三好興行のお化け屋敷だ。台風で店開きをできなかった年も含めると5年ぶりの興行になる。

「やっぱりデカンショがないと夏が終わらない。それに地元なので、デカンショで興行しないと、やり切った感じがしません」と孝志さん。「丹波篠山で大きくしてもらったので、地元に活気を出すことで恩返しできたら。外から来た人にも、『デカンショに行ったらお化け屋敷があって面白かった』と言ってもらえたら、知名度アップに一役買えますから」と笑いながら、来場者を恐怖のどん底に落とす準備を進めている。

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