「銀座」で生き残る”粋”な老舗 創業110年の仕出し料理屋

2023.10.31
たんばの世間遺産地域注目

風情あふれる「やまく」の前に立つ剛三さんと真由美さん。剛三さんいわく、夫婦で長く続けられる秘訣は「相手を思いやること」=兵庫県丹波市市島町上牧で

当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は、兵庫県丹波市市島町上牧にあり、創業約110年の歴史を誇る老舗の仕出し料理屋「やまく」です。

1960年代は、同集落内には旅館や、酢や塩、たばこを売る店、豆腐屋、ライター工場、製材所など、地域の核となる10以上の店舗などが約500メートル間に立ち並ぶ「上牧商店街」があり、「銀座通り」と呼ばれるほどにぎわった。しかし、現在も営業を続けている店舗は片手で数えられるほど。やまくは、往時の商店街から”生き残る”数少ない店の一つだ。

4代目の竹内剛三さん(67)と、妻の真由美さん(63)が切り盛りする。旬の野菜や魚をふんだんに使ったボリューム満点の和風弁当(1000―5000円)を提供。特に市島地域内の集会や冠婚葬祭での宅配依頼が多く、地元で愛されている。

剛三さんは大阪の調理学校で修業したのちに帰郷。「当時は後を継ぐのが当たり前だった。何も抵抗はなかった」と振り返る。結婚して間もない28歳の時に父・国之さんが病でこの世を去り、店を継いだ。二人が若い頃は幼い娘を背負いながら働く日もあった。2階の座敷は宴会場だったが、今は使っていない。

上牧自治会の元会長で、鴨庄地区自治振興会長の木寺章さん(76)は「田舎にしては『粋』な料理が出てくる。忘年会や慰労会、同窓会などがあれば『やまくさん行こか』となる」と笑う。

商店街は、少子化や後継者不足などの影響で廃れた。やまくの売り上げも往時と比較すれば3分の1程度に。剛三さんは「年を重ね、作業に集中するのも難しくなった」と明かす。それでも、「『おいしかった』の一言が一番うれしい。信頼は裏切れない。健康に気を付けながら、できるだけ長く続けたい」と顔をほころばせた。

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