旧陶芸会館「甦れ!」 「陶器まつり」発祥の地を再認識 一夜限りの夏祭り

2023.10.09
地域

一夜限りのイベントで盛り上がりを見せた会場=2023年9月29日、兵庫県丹波篠山市今田町上立杭で

日本六古窯の一つ、丹波焼の産地として知られる兵庫県丹波篠山市今田町立杭地区の若手陶芸家でつくる「グループ窯(よう)」(市野秀作代表)などがこのほど、長らく物置となっていた旧丹波焼陶芸会館(同町上立杭)とその広場で、「甦れ!旧陶芸会館―立杭焼と歴史が織りなす夏祭り」を開いた。会場の同会館は、今では丹波篠山の秋の風物詩となった陶器まつり発祥の場所。地元の窯業関係者や住民に懐かしい思い出と共に、地元の魅力を再認識、再発見してもらいたいと企画した。こうこうと輝く月の下に約300人が来場し、飲食を楽しみながら談笑に花を咲かせ、ステージで繰り広げられる多彩なアトラクションに拍手を送るなど、にぎやかで和やかなひとときを過ごした。

 

第1回陶器まつり(陶器市)を開催したグループ窯の初期メンバー。その当時を振り返った

グループ窯と丹波焼若手陶工、丹波焼の里をフィールドワークの舞台としている関西学院大学の学生有志でつくるHoL+(ホルプラ)の主催。

ステージでは、今年で46回を数える陶器まつり(第1回は陶器市)を発案・開催したグループ窯の初期メンバー(7人)の6人が、グループ立ち上げの経緯や陶器市開催の思い出を披露。「当時は、二十歳前後の若輩者に大それたイベントができるはずがないという雰囲気だった。しかしそれをバネに奮起し、友人や知人の協力を得て準備を進めた。そんな中で迎えた当日、昼過ぎには不安は安堵へと変わったが、反面、品物不足と駐車場不足で大わらわだった」と振り返った。

ジャグリングで会場を沸かす森本さん

また、窯元「丹山窯」の陶工、森本祐介さん(30)が神戸大学時代にサークル活動で磨いたジャグリングの妙技を披露して会場を沸かせた。来場者はステージイベントを楽しみながら、地元の飲食店が協力した屋台も楽しんだ。同会館内では、歴代の陶器まつりポスターがずらりと飾られたほか、兵庫陶芸美術館学芸員による同会館の歴史資料も数多く展示され、興味を誘っていた。子どもたちを楽しませる電動ろくろ体験や陶土を投げるストラックアウトなども人気だった。

イベント会場となった旧丹波焼陶芸会館

同会館は、1948年に建てられた県丹波窯業指導所(やきものの試験研究施設)が廃止された翌年の69年、その跡地に建設。やきものの展示即売や古丹波・現代陶芸作品を展示するなど、丹波焼振興の拠点としての役割を担った。85年に「立杭陶の郷」が完成し、機能移転された後は、今田町商工会事務所として使われたほか、同美術館が開館(2005年)するまでの間、準備室が置かれるなどしたが、それ以後は物置となっていた。

20年5月、コロナ禍による自粛ムードの最中、丹波焼をPRしようと、グループ窯のメンバーが、にぎわっていた当時の同会館の様子を含む昔の写真を収集。交流サイト(SNS)で発信したところ、想像を超える反響があり、メンバー自身も、これまで何げなく眺めていた会館の存在が大きくなったという。

巨大な梁に、吹き抜けなど、凝った造りの旧丹波焼陶芸会館

同イベント実行委員長の大上裕樹さん(37)が昨年、妻の彩子さんと興味本位で同会館内を探索。初めて足を踏み入れた二人の目に、凝った造りの吹き抜けや、巨大な天井の梁などが飛び込んだ。「昭和の雰囲気に圧倒された。こんな“見せる”空間が広がっていたとは」と驚き、「この素敵な場所を多くの人に知ってもらいたい」と、今年は開催を見送っていた夏祭りの代替行事として計画した。

グループ窯の初期メンバーの大西文博さん(72)は、「何とかして丹波焼をPRしたい、とこの場所に魅力を感じて45年前に陶器市を開催した。若い子たちが、その場所に同じように魅力を感じ、イベントを開催してくれたことは何ともうれしいこと。当時の記憶が鮮明によみがえってきた」と顔をほころばせた。

大上委員長は、「大勢の方々の協力があって盛大に行えた」と感謝し、「この場所から始まったことを改めて見つめ直し、私たちも新しいことに挑戦していきたい」と話している。

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