丹波焼の里で「陶泊」を 産地に滞在し手仕事と空気味わう 「より深いつながりへ」

2023.09.03
地域注目観光

「陶泊」スタートに向けて、丹波焼の里の良さを洗い出す関係者ら=兵庫県丹波篠山市今田町上立杭で

日本六古窯の一つで800年の歴史を誇る丹波焼の里、兵庫県丹波篠山市今田町立杭地区で、窯元の工房などに宿泊、滞在し、里の魅力をより深く味わう新たな観光事業「陶泊」プロジェクトが動き出している。窯元巡りや陶芸体験などから一歩踏み込み、陶工の手仕事や里の空気、文化なども味わってもらう。時代とともに団体旅行など大衆的な旅から、個人の趣向を重視した個別的な旅へと変わりつつある中、より深く魅力を届けることで、焼き物の里の活性化につなげる。

陶泊は造語。地域の工芸と旅行をつなぐ「ローカルクラフトジャパン」の発起人で、地域のコンサルティングなどにも取り組む「ミテモ株式会社」の澤田哲也さん(41)=奈良県御所市=が、「丹波焼クリエイティブ・バレー構想」を打ち出すなど、さらなる活性化を目指す丹波焼の里の活動を知り、農家に宿泊する「農泊」の窯元版として提案した。

澤田さんのアイデアを受けた丹波立杭陶磁器協同組合が主体となり、観光庁「来訪促進実証事業」の委託事業として準備を進めており、現在、1軒の窯元がギャラリー奥の部屋を宿泊所にする予定で調整を進めている。

陶工らが滞在者のガイドを務め、自分なりの里の良さを伝えるなど、より特別な時間を提供する。9、10月にモニターツアーを実施。11月の開業を目指す。

このほど澤田さんが、上立杭つぼねがさ交流館で行われた、陶泊スタートに向けた勉強会で講演。「窯元を巡り、集落の雰囲気や工房の空間などに『なんて美しいんだ』『このまま泊まりたい』と思ったことがアイデアのきっかけ。10万人が訪れるよりも、来た人が『何度も帰りたくなる、訪れたくなる』旅先になることを目指したい」と説明した。

キーワードとして、個性ある土地土地の暮らしの中に入って文化や哲学に触れる「生活観光」と、その土地の地域性の結晶とも言える工芸を味わう「クラフトツーリズム」があることを紹介。「山に暮らす人が海の生活を知ったときのように、地元の人にとっては当たり前のことや景色に、外から来た人々はものすごく感動する」とし、さらに「『旅の個別化の時代』にあっては、『この瞬間、私だけが体験している』ということが求められている」と話した。

また、観光客は世界的に増えており、観光領域ほど経済成長が見込まれている産業はないと言われる中において、その難しさも伝え、「高付加価値路線で体験と宿泊、食事、物販を組み合わせることが重要」とした。

近年の観光の状況や陶泊の可能性を語った澤田さん

宿泊と並んで鍵になるガイドについては、「伝統的であるとか、手間暇がかかっているなど、提供者側のこだわりは顧客からすると『すごいですね』で終わってしまい、価値と感じられにくい。『あなたも体験することで、この伝統を受け継ぐことができる』と伝えれば価値に転換できる。誰が説明してくれるかも大事。この土地で暮らしている皆さんが、皆さんの思う良さを伝えて」とアドバイスした。

講演を聞いた陶工や関係者らは早速、どのようなガイドができるかを考えながら、自分が思う地域の良さを洗い出し、陶泊開始に向けてイメージを膨らませていた。

陶泊は大阪・関西万博を機に、兵庫県の魅力を発信する「ひょうごフィールドパビリオン」の一環として実施する。

組合のフィールドパビリオン推進委員会の担当理事で、陶勝窯の市野勝磯さん(50)は、「どういう所で、どんな人が器や作品を作っているのかを知ってもらう方が商品を長く大切にしてもらい、また戻ってきてもらえる。これまでよりも深いつながりができることが楽しみ」と期待し、「特別なことをするわけではないので負担は少ないけれど、自分たちをどう伝えるか、もう一度、勉強し直さないといけない」と前を向いている。

陶泊 陶芸の里での滞在型旅行を指し、窯元の仕事の体験だけでなく、生活をも体験することで、単純な観光よりも産地に没入し、文化や伝統、精神性、作り手の美意識なども知る。ターゲットは都市部の子育て世帯や地域の工芸に関心のある層という。

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