「未来に出る症状をゆっくり」 認知症予防の新薬解説 予防推進センター長が講演

2023.11.11
地域注目

「認知症の治療と予防の最前線」と題し講演した古和教授=兵庫県丹波市氷上町本郷で

神戸大学大学院保健学研究科教授で、認知症予防推進センター長の古和久朋さんが、同県丹波市で「認知症の治療と予防の最前線」と題し講演した。医療現場で使用が始まるアルツハイマー新薬「レカネマブ」の効果や、認知症予防効果がある食事を説明した。レカネマブは「治療上の制約が多く、完全な進行の抑制や認知機能の改善は実現しない」と述べた。合わせて、古和教授らが丹波市で行っている研究から、「運動、コミュニケーション、食生活改善など多因子が介入することで、認知機能が維持されることが分かった」と、近く論文発表する研究成果の一端を紹介した。

同薬は、軽度認知障害や初期のアルツハイマー病が対象。投与により、病気の進行を27%抑制した臨床試験の結果を示した。「未来に出る症状をゆっくりにする。今の症状を改善させるものではない。物忘れなどの症状が改善するものではない」と説明した。

脳内にアミロイドベータという薬の標的物質の老人斑があることが使用条件。アルツハイマー型認知症と診断されても、脳内に老人斑がたまっているとは限らず、「蓄積がなければ薬は効かない」とした。老人斑の有無を調べる検査は、腰椎穿刺による髄液採取が最も確実とした。

新薬「レカネマブ」の臨床試験の結果を示したスライド

投薬は2週間に1回、1回1時間の点滴、当面1年半が治療期間になる見通しとした。また、副作用で脳出血が生じる可能性があることから、薬の使用に合わせて示される最適使用推進ガイドラインでは、投与中、常にモニタリングをする必要があり、救急でMRIの撮影が可能な病院であることが要件になる予定、とした。「薬をもらってよしよしの従来の薬とは大分違う」と念を押した。

その上で、認知機能を支えるには予防が大切とし、古和教授らが同市薬剤師会の26薬局と取り組んでいる「脳年齢テスト」への参加を呼びかけた。「初期に薬局でスクリーニングをし、患者の良い行動変容につなげたい。薬剤師から、認知症予防のために生活に取り入れると良い生活習慣の説明が受けられるので、ぜひテストに参加を」と述べた。

同市は、2020年秋に全国4カ所で始まった認知症予防の本格的多因子研究「J―MINT」の1会場。被験者が、古和さんらが考案した頭を使いながら体を動かす「コグニケア」に週1回90分間、1年半にわたり取り組み、月1回、栄養指導を受けた。この研究結果から、介入を受けた介入群(100人)は、介入を受けていない対象群(100人)より有意に認知機能スコアが高い好結果が得られたことを紹介。フィンランドで行われた、運動が認知症予防に効果があるとする先行研究より、短期間、低運動頻度で予防効果が現れたとした。

古和教授が示した認知症予防に役立つ食生活

頭を使いながら運動することが認知機能の維持に良い理由を「老人斑の元のアミロイドベータは、血管の拍動で脳の外へ放出される。運動に加え、脳を使うことで『ぶどう糖をくれ、酸素をくれ』と、脳の血管がより動く」と説明した。

また、食べ物について、信じるに値する先行研究をまとめた自身の著書「80歳からでも間に合う認知症がみるみる遠ざかる食べ方大全」から、認知症予防効果がある食べ物(動脈硬化予防効果、脳のしみを壊す効果がある食べ物など)を紹介した。

丹波市薬剤師会の市民公開講座「薬と健康」の特別講演。

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