入山料で仏殿修復 モミジ名所の「高源寺」 約1億円ため「大事業できた」

2024.05.10
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モミジのおかげで、100年前の外観に修復ができた仏殿。落慶法要に参列した、寺を支える住民と山本住職=兵庫県丹波市青垣町桧倉で

近畿圏を中心に、11月に数万人のモミジ狩り客が訪れる紅葉の名所、高源寺(兵庫県丹波市青垣町桧倉)。本尊をまつる仏殿(法王殿)の大規模修復が建立から300年を経て初めて行われ、4月29日に同寺で落慶法要が営まれた。関連の仏像修復などを含め、およそ1億円に及ぶ費用のほとんどをモミジ見物客の入山料をためた「寺会計」から現金で支払う。同寺がある桧倉自治会は23戸の小集落。先人が植え、住民総出で維持してきたモミジのおかげで、檀家は臨時出費なしに仏殿を数百年先の未来につなぐ大事業を成し遂げた。

もみじ狩りの客でにぎわう境内。新型コロナ禍に過去最多のシーズンは5万人が訪れた(2022年11月撮影)

臨済宗妙心寺派の寺院。正中2年(1325)に遠谿祖雄が開き、翌年、後醍醐天皇から寺名を賜った。開基が修行先の中国杭州の天目山から持ち帰った「天目楓」など約200本のモミジで境内が錦秋に染まる。風格ある古木が多く、古刹の風情と相まって人気紅葉狩りスポットとなり、個人客のほか、大手旅行社のバスツアーのコースになっている。

モミジで誘客しようと、同寺と檀家は30年ほど前に大型駐車場を整え、近隣寺院でいち早く紅葉時期の拝観を有料化。入山料は、大人1人300円。男性は受け付け、駐車場誘導に出務、女性は物産館「もみじの館」の運営に当たる。檀家だけでは人手が足りないため、非檀家の自治会員も出務し、観光客を迎えている。シーズン終了後の落ち葉掃除は寺から作業を受託して自治会で行うなど、文字通り「集落を挙げて」寺を支えている。出務の対価の報酬、駐車場借地料、公衆トイレの維持管理費などの経費を差し引いた残りを、寺を維持するため蓄えてきた。

修復した仏殿は、天正の「明智の丹波攻め」(1575―79年)で焼失した寺を再興した天厳明啓禅師が、享保5年(1720)に建立したもの。大正10年(1921)ごろの写真を頼りに、100年前の姿にできるだけ近づけた。写真に残る屋根はかやぶきだったが、後年のふき替え負担を考慮し、耐久性が高い銅板ぶきに。観光客に銅板屋根瓦への寄進を募り、工事費に充てたとはいえ一部で、ほぼ貯金で賄った。

山本祖登住職(68)は、「ありがたい。檀家の皆さんに賛同をいただき、徹底的にやらせてもらった」と感謝し、「丹波市内の他のモミジ寺にも、入山料をためれば将来、大きな助けになることを知ってもらえる。関わる人の励みになるのでは」と力を込める。

檀家で仏殿建設委員会の足立宏幸委員長(76)によると、17年前に大規模修繕の話が持ち上がった際は、蓄えが足りず「借金してまではできない」と持ち合わなかった。現金で払えるだけの貯金ができ、ひどい雨漏りをこれ以上放置できないと、このタイミングで修復に踏み切った。

法要に出席した足立明美さん(84)は「みんなで長く守ってきた。修復ができて良かった。昔からお参りはあったけれど、だんだん増えてきた。植わっているモミジの数も、観光事業に取り組んで増えた。普段は誰も歩かない静かな集落が、10月末から11月いっぱいだけはとてもにぎやか」と笑顔。足立委員長は「少ない檀家で各戸から寄付金を集めるやり方はできない。モミジを植えてくれた先人と、観光客のおかげで、こんな小さな集落で、よそでもできないような大事業ができた」と晴れやかな表情を浮かべた。

須弥壇や土間の修復など、内部の工事にかかり、全ての工事を紅葉シーズンまでに終わらせる。

境内には江戸後期に建てられた惣門、山門、方丈、多宝塔などの建築物があり、これらもやがて大規模修復が必要になる。

落慶法要には、向嶽寺派管長・僧堂師家、宮本大峰老大師(山梨県甲州市)や関係寺院が参列。地元の足立晃一郎さん、甲賀流氷ノ川太鼓の奉納コンサートもあった。

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