篠山層群から新種恐竜化石 鳥に近い「トロオドン亜科」 進化解明の一翼に

2024.08.04
丹波の恐竜丹波篠山市地域自然

ヒプノヴェナトルの化石(脛の骨の長さを考慮せず、骨を並べたもの)=兵庫県立人と自然の博物館(提供)

兵庫県立人と自然の博物館(以下、ひとはく。三田市)や北海道大学総合博物館などの研究グループは、2010、11年に県立丹波並木道中央公園(同県丹波篠山市西古佐)内の白亜紀前期の地層「篠山層群大山下層」(約1億1000万年前)から見つかった恐竜化石が新属新種であることが明らかになったと発表した。学名は、この恐竜が眠るような姿勢のまま化石になったことと、発見者の松原薫さん(75)=同県宝塚市=、大江孝治さん(75)=丹波篠山市池上=の名前を合わせ、「松原と大江の眠る狩人」を意味する「ヒプノヴェナトル・マツバラエトオオエオルム」と命名した。化石は、来年1月13日までひとはくで展示している。

2010年9月に地元の地層探索グループ「篠山層群をしらべる会」の松原さんと大江さんが、同公園で催す化石発掘体験イベント用の岩石を準備していた際に、前脚と後ろ脚のひざの化石を発見。これを受け、ひとはくが翌11年7月に実施した発掘調査で後ろ脚のかかと部分の化石を見つけた。さらにCTスキャン分析によって、指の骨やろっ骨なども確認した。

前脚の指骨の上面にくぼみがあるなど、他のトロオドン科には見られない4つの特徴から新属新種と判断した。

ヒプノヴェナトルの生体復元画=©服部雅人

ヒプノヴェナトルは肉食の獣脚類恐竜で、現代の鳥に近いグループとされるトロオドン科の進化型「トロオドン亜科」に分類されるが、同亜科の中では原始的な種。推定で全長1・1メートル、体重2・5キロ。全長の半分ほどを占める長い尾を持つ。二足歩行で全身が羽毛に覆われていたとされる。

足の甲の骨の一部がばねのような構造になっており、速く走るために地面からの衝撃を吸収する機能を担っていたと考えられる。この構造は、白亜紀末頃の同科に見られるものとされてきたが、今回の研究で、従来の学説より3500万年ほどさかのぼれるという。

同科はきゃしゃな骨格のため、保存が良好な化石が少なく、世界的に見ても中国遼寧省で発見された数種を除くとわずか。国内では同科の可能性がある化石が岐阜県高山市と丹波市(卵殻化石)、福井県勝山市(足跡化石)で見つかっているが、確実に同科の恐竜といえる化石はまだ未発見で、確実なものは今回のヒプノヴェナトルが初めてとなる。

国内から報告された恐竜化石のうち、学名を有する恐竜は12例目で、篠山層群から産出し学名が付けられた恐竜化石(卵殻化石を除く)は丹波竜の和名で知られるタンバティタニス・アミキティアエに次ぐ2例目。

ひとはくの久保田克博研究員(44)や北海道大の小林快次教授(52)らは、「ヒプノヴェナトルの研究により、トロオドン亜科が特殊な前脚の機能と高い走行性を獲得し始めたことを明らかにした。篠山層群から発掘された化石が、世界の恐竜の進化の謎を解き明かす一翼を担っており、日本産の恐竜化石の重要性が再認識された。今後も日本独自の視点から恐竜の進化を解き明かしていける」と話した。また、「日々調査を続けてきたアマチュア化石愛好会の協力があってこそのもの。今後も地域の化石愛好家の皆さんと深い協力体制を築くことで、さらに研究が大きく進む」と期待感を語った。

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