14年ぶりの山のドングリ類の大凶作、里の柿の不なり―。ダブルの餌不足の影響か、国産栗の高級ブランド「丹波栗」の産地、兵庫県丹波市の一部栗園がツキノワグマの食害に遭っている。9月初旬―中旬にかけ園内の早生種が荒らされた。
県の研究機関が、「この秋は過去5年間平均の2―4倍出没が多い」との推計結果を公表し、里に近づけないために、栽培管理していない柿の木は伐採する、生ごみを畑にまかない、など「里に誘引しない」よう啓発しているが、栗園は人里近くの山際にあり、手塩にかけて栽培した栗は生産者の重要な収入源。栽培の中核の中生種の収穫が始まる中、生産者団体の代表は、「収穫時の遭遇を避けるため、ラジオなどを携帯するよう注意喚起する」としている。
同市青垣町東芦田の栗園6カ所が9月7―18日にかけてクマに荒らされた。狙われたのは、収穫前の早生種「ぽろたん」「丹沢」。全ての枝を折られて幹だけになった木や、民家まで10メートルほどの位置にある木も折られた。クマ棚(クマが枝を折り、1カ所に集めた塊)が作られた園もあった。
「前足で押さえてイガを割っている。トゲが痛くないのか」―。獣害対策を担当する同自治会副会長の荻野一喜さん(70)が仕掛けたカメラに、栗を食べる成獣が映っていた。被害に遭ったのは早生種。同じ園の中生種で丹波栗の代表品種「銀寄」「筑波」は無事だった。
7日に被害を確認し、翌8日に地元の猟師が駆除わなを設置した。その後、その園には現れず、数日おきに自治会内を1周するように園を荒らした。
一方、クマの生態に詳しい県森林動物研究センターの横山真弓研究部長によると、里のクマ出没の要因の7割が柿という。
クマは栗も好物だが、他に食べ物があったからか、これまで東芦田でクリ園が荒らされたことはなかった。荻野さんは、「これまで食べに来ていた柿が今年は全くと言っていいほどなっていない。売り物の丹波栗に目を付けられては困る」と当惑する。
県農林水産技術総合センターの黒田英明主任研究員(果樹担当)によると、管理していない柿は、なり年と不なり年がある。東芦田は昨年がなり年で、今年は不なり年とみられる。「隔年結果に加え、害虫も要因と考えられる」という。クマが早生種を狙ったのは「9月上―中旬は、早生種の方が『銀寄』『筑波』よりでんぷん量が多く、甘い。おいしい物を選んでいる」と推測する。
丹波市丹波栗振興会の蘆田昭治会長は「栗の味を覚え、執着されてはかなわない」と懸念する。丹波栗のほとんどが「銀寄」「筑波」。関係者のいずれもが、「そちらが狙われないか心配」と口をそろえる。
ドングリ類を調査した県森林動物研究センターによると、ブナ、ミズナラが大凶作、コナラが凶作。3種総合で大凶作という。冬眠前のクマが餌を求めて人里に大量出没する可能性が危惧されるとし、人里でも夕方から朝の時間帯の外出に注意することなどを求めている。
目撃・痕跡情報は全県で今年度が449件(8月末)で、過去最多だった2010年度同期比で63件の増。丹波地域は7月末までで14件。過去5年間平均より3件多い。