中京テレビのグルメバラエティー番組「ヒューマングルメンタリー オモウマい店」(日テレ系)で取り上げられ、一躍話題になった埼玉県滑川町のそば店「會津野 茂三郎」で修業を積んだ女性が、兵庫県丹波市春日町野村で「そば処 純三郎」を開業した。人情味豊かな名物店主の下、技術だけでなく、客を楽しませるもてなしを学んだ。「師匠のお店のように、お客さんとの会話が弾む楽しいお店にしたい」と意気込む。
店を営むのは東野純子さん。こしの強い「会津そば」を出す。福島・会津地方で生産されたそば粉を使い、早朝から手打ちする。関西仕様にやや甘くアレンジした茂三郎秘伝のだしと、辛みがくせになる大根汁で味わう。天ぷらや薬膳飯には丹波産の食材を使う。
農業、アイリスト、介護士をしていた東野さん。元々そば好きで、店を開きたがったが、地元の兵庫県では技術を習える場所が少なかった。
そんな頃、たまたまテレビをつけると、番組で茂三郎が紹介されていた。店主の五十嵐茂さんの歯に衣着せぬ接客や、弟子との心温まるやり取りが人気を呼んでいた。そばを味わった客が「おいしい」と口をそろえ、弟子を受け入れていることに心引かれた。
実際に味を確かめたいと店に足を運ぶと、名物の大根汁のおいしさに衝撃を受けた。アットホームな雰囲気にも引かれた。後日、「店をしたい」と弟子入りを志願。「74番」目の弟子として入門した。
「ただ寝るだけの部屋」に住み込み、修業に明け暮れた。そば粉を練り、生地を切る作業を繰り返し、出来たそばは必ず五十嵐さんに見せ、「よし」と認められれば客に提供できる決まり。だが、当初は到底認められず“不合格”のそばを自分で食べる日々が続いた。本当にうまく作れているのか不安だったが、悩みも打ち明けられなかった。そんな東野さんに、五十嵐さんから「みんな最初はそういうもんだ。気にするな」と優しく声をかけられたのが忘れられない。「表情で察してくれたのかな」と涙を浮かべる。
店には五十嵐さんに会いたい、と全国からファンが足を運ぶ。客に「口に合いますか」と声をかけ、冗談も交わす。並んで待っている客がいれば中に入って涼んでもらいながら会話し、写真撮影にも快く応える。
しばらくすると、出来たそばを「見せにこなくていい」と言われるようになった。「師匠のおかげで自信を持てるようになった」と、また涙を浮かべる。卒業が決まり、「スタートラインに立っただけだぞ」と背中を押された。
古民家の物件を探す中、以前はハンバーガー店だった春日町の物件に巡り合った。自然に囲まれたまちの中で異彩を放つ「アメリカンな雰囲気」が気に入った。五十嵐さんも「面白いじゃないか」と共感。店名は、名前の「純子」と「茂三郎」を組み合わせた。
オープン以降、近所の人やバイクのライダーたちでにぎわう。東野さんは五十嵐さんと同様に「口に合います?」などと積極的に声をかける。客からは「こんな店初めて」「楽しい」と喜んでもらえている。「自分もスタッフも楽しい」と笑う。
営業は午前11時半―午後3時(2時ラストオーダー)。月・金曜定休。