兵庫県丹波篠山市は、獣害の“主役”となっているシカやイノシシの生息場所を、デジタル技術を用いて特定し、生息頭数を把握することで効果的な獣害対策を進めていこうと、民間企業3社と「鳥獣害対策DXに向けた連携に関する協定書」を締結した。これに伴い、獣が放つ熱源を感知できるサーモグラフィシステムを搭載したドローンを市内の森の上空に飛ばし、地表を撮影する実証実験を行っている。市は、「四方を山に囲まれた盆地にある丹波篠山の獣害は大きな課題。DXの力で、効率的で的確に駆除できるのでは」と期待を寄せ、「獣害を防ぎつつ、生態系も守っていくこの画期的な取り組みが、丹波篠山モデルと呼ばれるようになることを目指していきたい」と話している。
同協定書を締結したのは、▽林業や鳥獣被害分野などにおけるDXなどを推進する「テミクス・グリーン」(東京都)▽計測から解析までできる地理情報システムなどを提供する「マプリィ」(同県丹波市春日町)▽クラウドアプリケーションやクラウドプラットフォームを提供する「セールスフォース・ジャパン」(東京都)―。
協定の項目は、▽ドローン等を活用した鳥獣生息数把握に関すること▽鳥獣被害地の把握に関すること▽獣害駆除の報奨金申請に関するDXに関すること―など。
3社と市は、被害に遭っている▽青山台ゴルフ倶楽部(和田)▽菅―大渕▽馬地山(新荘)▽日本チバガイギー社宅跡(筋山)―の4カ所を実証実験の場に設定。昼と夜に複数回、ドローンを飛ばしている。実験による画像データから獣の生息状況と被害発生場所との関係性を把握。地図に落とし込み、データベースの作成を進めている。このデータをもとに銃猟を行ったり、罠や獣害防止柵を設置したりすることで効率的な獣害対策が図れる、としている。
1月の撮影では、シカかイノシシと思われる大型獣の熱源反応を捉えることに成功。今月3日には菅―大渕の小さな山で、高度約80メートルから昼夜撮影し、いずれの時間帯でも動物と思われる熱源反応を確認した。
3社は、「低空で飛べばさらに精度を上げられる。これらのデータを蓄積し、AI解析を行うことで、将来はシカやイノシシの大型獣にとどまらず、サルやアライグマなどの識別も可能になる」と話す。獣の体温と地表温度との差が縮まり、木の葉が茂る暖かい時期は、サーモグラフィによる識別が難しくなるため、気温が低い冬季にデータを蓄積していくという。同様の実証実験を島根県安来市などでも行っている。
市は早速、今月16日から始まり、11月10日まで実施する有害捕獲活動でこれらのデータを活用し、捕獲効率アップにつなげたいと意気込んでいる。
また、獣害駆除の報奨金申請は現状、猟師が仕留めた獲物の写真や切り取った尾などを書類と一緒に行政に提出している。DXを進めることで、現場で仕留めた獲物をスマートフォンで撮影し、そこから得られる位置情報や、チャット機能などを活用することで、申請手続きの大幅な省力化が図れるという。これらの実証実験も進めていく。