クマの研究者で兵庫県立大教授・兵庫県森林動物研究センター(同県丹波市青垣町沢野)研究部長の横山真弓さんが10月28日、氷上住民センターであった丹波市環境審議会で、東日本で相次ぐツキノワグマによる被害について講話した。山の餌不足に端を発しているものの、「個体数が増えているのに管理をしてこなかった」「クマは人里においしいものがあると2年前に学習した」などと、問題の背景を解説した。個体数管理をしている兵庫を含む西日本は「闇雲に怖がる必要はない」と述べた。
「西日本と東日本は全く状況が異なる」と切り出した。「昨年、西日本はドングリが大凶作でクマが大量出没したが、こんなことになっていなかった」とし、「(東日本は)個体数の推定をやってこなかったことが大きな要因」と、悪条件が重なった今年、不幸な人的被害を生じる形で顕在化した原因を説明した。
昨年の西日本で今、東日本で起こっているような事態にならなかったのは「個体数管理ができているから」とした。10年前から個体数を推定し、適正数内に抑える「個体数管理」に取り組んでいる。集落の人の生活圏に現れたときは速やかに駆除し、侵入手前で捕る取り組みを重ね、通報ルートを作ってきた。
兵庫県は700―800頭と推定し、800頭を超えた段階で積極的に捕獲する。毎年、数を推定しており、今年も枠内に収まっているとした。
一方の東日本は、調査は5年に1度という所が多い。東日本は元々クマが狩猟獣になるくらい多いにもかかわらず、個体数の推定をしておらず、増減が分からなかった。「5年前からさまざまな機会に警鐘を鳴らしてきたが、始めなかった。2年前にも6人が亡くなり、200人がけがをした。ツキノワグマを7000頭処分した。それで減っただろうという認識が大きかった」と指摘した。
2年後の今年、東日本でドングリ類が一斉凶作。秋以前の春―夏の出没も多く「明らかに個体数が増加している」とした。2年前に秋田県だけで2000頭を捕獲した。今年はそれ以上出没していることから、「2年間で2000頭以上、1年で1000頭以上増えなければ、こうはならない」とし、5年前に同県で言われていたクマの生息頭数「およそ4000頭」が見込み違いで、「6000―7000頭いたのではないか。でないと、計算が合わない」と述べた。
ドングリ類が同時凶作になると、山の実りで増えたクマを養えない。人里に向かう激しさは「2年前にうまいものがあると知ったからで、一気に増している。人間が怖くないことも学習している」と説明した。学校や福祉施設などに現れる理由を「大量に調理される食べ物の『おいしい匂い』に誘引されている」とし、2年前のカキ、コメ、ソバの実などから、さらに積極的に人間の生活圏に入り込んでいると解説した。
クマに襲われ、亡くなる人が出ている理由は、山の中でクマの生息が高密度になり、クマ同士の餌場争いが激しくなっていることを挙げ、「キノコ狩りに来た人に餌場に入られると、強い攻撃性を発揮する。通常、クマは一撃を食らわせ逃げるが、『人間はおいしいもの』と認識された。クマがそういう生き物だと、知っていることは大事」と述べた。
「高密度を避けている兵庫県でも突発的な遭遇は避けられないが、被害は何年かに1度に抑えている。闇雲に怖がる必要はない」とした。センターで研究のためGPSを付け追跡しているクマは「山の実りが豊作で、里に下りて来ていない。山の中が良い場所になっている」とした。
今年はカキが大豊作。「カキはクマを誘引する。食べないなら伐採を」と促した。目立った被害が生じておらず、カキが目につきやすい今年対処することが、クマ被害予防になると説いた。
また、山に入る際の注意点として、「高くて短い音が嫌い」とし、高い音がする鈴やホイッスル、「おーい」と大声で叫ぶことや、「パン、パン」と柏手を打つことも有効とし、先にクマに見つけてもらい、クマに逃げてもらうよう助言した。
横山さんは、専門家として、環境省の「クマ類保護及び管理に関する検討会委員」などクマ関係の検討会委員を多く務めており、審議会事務局の求めに応じ講話した。





























