SNSに支えられ 寺の再建へ「やっとスタート」 【能登半島地震から2年過ぎ㊦】

2026.03.19
地域注目

まもなく始まる再建工事を前にした本堂と鈴木さん一家=石川県七尾市で

能登半島地震から丸2年を迎えた元日の能登は、どんよりとした天気だったという。「でも、冬の能登は天気が悪いのが普通。地震の時は快晴で、去年も似たような天気だったから、『また来るんじゃないか』と不安だった。今年は天気が悪くて安心しました」―。そう語るのは、石川県七尾市にある妙圀寺で暮らす兵庫県丹波市柏原町挙田出身の鈴木淳子さん(42)=旧姓・下井=。共に七尾で暮らし、同じ丹波出身者として、「のと丹波人会」を結成した山口敦子さん(29)と同じく、「やっぱり、『明けましておめでとう』という気持ちにはならなかった」と振り返る。

夫で住職の和憲さん(46)、娘の沙和さん(11)と共に寺で激震に見舞われた。大津波警報が響く中、高台にある寺へ避難してくる近隣の人々の対応に追われた。

その後、つながりのある寺や、妙圀寺の交流サイト(SNS)を見た人などさまざまな縁が生まれ、多くの物資やボランティアが寺に集まるようになった。一家は寺を地域に開放。ボランティアと共に2年にわたって物資の配布や、傷ついた住民の心を癒やすイベントなどを開き、「人が集う場所」という寺本来の役割を果たしてきた。

もちろん寺も被害を受けた。門は倒れ、境内には地割れが発生。建物の一部は全壊、住居部分も半壊判定となった。一見、被害がないように見える本堂は右に向かって傾いており、その傾きは現在進行形だ。

昨秋、ようやく再建の日程が決まったことから、ボランティアの手も借りながら本尊などを住居部分に移して仮本堂に。今春にも着工するため、本堂を使って開いてきたイベントもいったん終わりを迎えた。

基礎に大きな被害を受けていないことが分かり、当初想定したほどではないとはいえ、再建費用は「億」を超える。宗派や檀信徒からの支援があるものの、ほとんどが実費だ。

そんな中、幾度となく折れそうになった淳子さんの心を支えてくれたのはSNSだという。「四六時中、再建のことばかり考えて、いつも『私たちの人生は、寺の再建で終わる』というところに行き着いていた」と言い、「しーんとした夜、スマートフォンを開くと、自分がいる場所から抜け出せた。おいしいものを食べに行った人や、ライブに行った人。不思議とうらやましいと思うのではなくて、自分も行った気になったし、幸せな人たちを見て安心した」とほほ笑む。

一方、沙和さんは2年前の夏休みの自由研究で大きな模造紙に記した被災と支援の記録「お寺とさいがい」を制作。昨年もパート2を作った。これがSNSやボランティア、また報道を通して各地に伝わり、埼玉や静岡、愛知、東京、丹波などで展示されたり、学校の授業で活用されたりした。

沙和さんは、「最近、能登のことが報道されなくなっている気がするので、『お寺とさいがい』を通して、また思い出してもらえたらうれしい」とにっこり。「いつか、現地に行って、自分の言葉で話せたらとも思う」

SNSと紙という違いはあれど、共に人とのつながりが心に栄養を与えている。

仮本堂への移転で、11、12月とお参りを止めていたが、くしくも正月から再開。和憲さんは、「能登の寺社はやっとスタートだと思う」と言う。一方で、「これまではイベントなどで自分以外のことに動いてきた。でも、はたと自分たちのことを考える時間ができると、急に気分が落ち込む」。

そんな時、一家が聴くのが、同寺でコンサートを開くなどの支援を行っている、シンガーソングライターで丹波篠山ふるさと大使でもある石田裕之さん(45)=神戸市=の歌「やっぺす石巻」だという。石田さんが東日本大震災で被災した宮城県石巻市の人々と作った復興支援ソングだ。

和憲さんは、「東北の地震も寒い時期で、『さくらが咲いてきた』『あったかいご飯食べれた』など、歌詞に共感する部分がある。そして、サビの『忘れないでね』。これを聞いて、泣いて、すっきりして、また頑張ろうと。歌ってすごい」と話す。

弔い方が多様化し、檀家も高齢化する現代。淳子さんは、「一般的に見たら、お寺ってあってもなくてもいいように思われる時代。再建は、自分たちの代でこのお寺を終わらせないために『意地を張っているのかな』と思うこともある」とぽつり。しかし、「万人に必要とされなくても、一人か二人にとっては必要な場所かもしれない」。そう思えるのは、地震後、本堂に広がった人々の笑顔があったからだ。

地震直後、怖くて親から離れられなくなった沙和さんは、「前より怖くなくなった」と言う。再建という現実に直面しつつ、心は少しずつ時が癒やしている。

淳子さんはSNSにこうしたためた。「スマホの向こうから届く優しい言葉の一つ一つが、『一人じゃないよ』と言ってくれているように感じる。それが私たちにとって、かけがえのない灯りで、闇を静かに照らしてくれていると思う」。灯りを頼りに3年目も歩き続ける。

同寺は、寄付や、募金箱を設置してもらえる場所を募っている。

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