出張先で事故に会った男が入院中に知り合った白髪の老女と東京で再会。彼女は艶っぽい中年に変わっており、その後も会うたびに10歳ほど若返っているが、やがて女学生から幼児となって舞い散る枯葉と共に消えてゆく。―山田太一の「飛ぶ夢をしばらく見ない」という小説は、還暦から一回り少々過ぎの誕生日を迎えた者にはめくるめくような話だ。▼「年をとる」の「とる」は「給料をとる」、「点をとる」など、プラスのものを獲得するという意味や「痛みをとる」、「しみをとる」などマイナス要因を除去する意味のほか、「労をとる」、「責任をとる」など身に負う、引き受けるなどの意味を含む。「年をとる」もこれに類するものらしい。▼しかし「年をとる」も、本来はの意味で使われていたのではないかと推測する。人の寿命がごく短かった時代に50歳、60歳を過ぎて生きているのは、敬服に値することだったろう。▼ところが長寿時代の現在では雲ゆきが変わり、「としをとるのはステキなことです そうじゃないですか」(「傾斜」)と歌ってくれるのは中島みゆきくらいになった。▼であれば、筆者も今日以後はの意味で毎年「年をとって」、還暦くらいまでいこう。幼児にまでいってしまうのは御免だが。まあ、そんなに都合よくいくか。(E)