大阪府立大講師・詩人 細見和之さん

2002.12.12
たんばのひと

「物」中心主義に警鐘
大阪府立大講師・詩人 細見和之さん (京都市在住)
 
 (ほそみ・かずゆき)1962年 (昭和37年) 篠山市上立町生まれ。 篠山鳳鳴高校、 大阪大学文学部を卒業。 同大学院、 同人間科学部助手を経て、 97年から大阪府立大総合科学部講師。
 
 第二次世界大戦中にアメリカに亡命し、 戦後ドイツに帰り活躍したユダヤ系哲学者、 「アドルノ」 を研究テーマにしている。
 「アドルノは、 戦争中にナチスドイツが起こしたユダヤ人の大量虐殺を思想的な面から徹底的に批判したことで知られています。 ナチスはユダヤ人が身に付けていた宝石や金歯までも奪いました。 アドルノは、 『使えるものは使え』 という西洋文明の限界を暗示したのかも知れません」 と語る。
 そうした観点から現代社会を見る目も厳しい。 「文明の発達で、 野蛮な状態が解消されるか。 今の犯罪を見ているとそうはいかない。 社会を騒がして喜んでいるような愉快犯といわれる犯罪が生じるのも、 その一例でしょう」 と話し、 「文明や技術面は確かに進んだが、 心の貧しさが背景にあると思います」 と物質中心の現代の風潮に警鐘を鳴らす。
 大学院の指導教授がアドルノ研究の第一人者だったことが、 この道に進ませた。 大学助手時代にアドルノの生涯と思想を国内の研究者で初めて一冊の本にまとめた。  
 大学では、 言語表現論や社会思想を講義しているが、 もう一つの顔は詩人。 大阪文学学校でも学んだ。 「高校まで篠山で過ごし、 田舎での生活にどっぷり浸っていたが、 大学に入学したとたんに、 各種サークル、 政治や宗教活動などで飛び交う独特の言語が 『他者の言葉』 として感じられ、 苦しめられた」 という。 無器用にも、 その一つ、 一つに巻き込まれた。 「アイデンティティーの危機にさらされていた」 と学生時代を振り返る。 有名な哲学者ヘーゲルの研究をしていたころ、 他者の言葉におぼれるなかで、 せり出してきたのが詩だった。
 「デカンショ節再考」 など郷土をタイトルにした評論も書いており、 篠山が常に心にある。 高校時代は軽音楽サークルに所属し、 音楽に親しむ一方、 ロシア文学を好んで読んだ。 来年四月からは、 そのふるさとにUターンして、 大学に通う。 「講義のほかに雑誌の依頼原稿、 本の執筆などに忙殺されているので、 もう少し腰を落ち着けて仕事をしたい」

(臼井 学)

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