兵庫県版レッドデータブックBランクの花「クリンソウ」の日本有数の大群生地がある同県篠山市。群生地を発見した人や保護活動に取り組む人でつくる「多紀連山のクリンソウを守る会」(樋口清一会長)がこのほど、設立10周年の節目を記念した講演会を開いた。発見当初、調査に携わった「人と自然の博物館」(同県三田市)の主任研究員・藤井俊夫さんを講師に迎え、「篠山のクリンソウ群落―サクラソウの仲間と比較して」をテーマに話を聞いた。また、「保全活動から見えた課題と展望」と題して意見を交わし、今後の取り組みの方向性を探った。講演要旨は次の通り。
約4100平方メートルに約17万株
2007年、多紀連山・御岳の山中で絶滅が危ぶまれているサクラソウ科の多年草「クリンソウ」の大群生地が見つかった。約4100平方メートルに約17万株を確認し、そのうち開花株は約6万株というものだった。当時、国内最大の群生地は栃木県の日光にあったが、そこには園芸種が入り込んでしまっているので完全な自生個体群とはいえない。
県内では以前から、今回発見された群生地と同じ系統と思われる篠山市丸山で1991年に、93年には社町(現・加東市)の清水寺と神崎郡市川町の笠形山で、94年には北六甲でそれぞれ標本が採られている。
さらに、10年に丹波市市島町の妙高山で見つかり、13年には宍粟市のちくさ高原で国内最大級といえる約15ヘクタール40万株もの大群生地が確認された。しかし、群落が点在しているため、密度は篠山の10分の1程度。県内各地で次々に発見され始めたため、御岳で発見された当時は県のレッドデータブックでAランク(絶滅の危機に瀕している種)に指定されていたが、現在はBランク(絶滅の危険が増大している種)に落ちた。
シカの増加、植物相の危機
篠山のクリンソウは葉の長さが20センチを超え、丈も50センチ以上あって他地域のものより大きかったのでお化けのように感じた。群生地が寺跡だったということと、史前帰化植物のタネツケバナと一緒に生えていることから、その昔、人が持ち込んで植えたという可能性も否定できない。
サクラソウ科は有毒植物。「プリミン」というアレルギー物質を持っており、シカが食べないため、最近クリンソウは増えている。しかし、奈良の春日山では、森が養えるシカの個体数がキャパシティーを超えてしまっているため、春先のえさの乏しい時期には毒のあるクリンソウの葉まで食べるようになった。90年ごろは見られない行動だったが、13年にはまともな葉がないくらいの状態だった。
兵庫県でもシカが増え続けると同じようになるかも。このような状況が広まると、日本全体の植物相の危機だ。