住民らが詠んだ句を神社に奉納する「俳額」を研究している元立命館大学文学部教授で、兵庫県篠山市小野新の中西健治さん(71)がこのほど、同市向井の八幡神社に「享和三年」(1803年)の文字が刻まれた俳額があることを確認した。中西さんが知る限り、同市内では最も古いもので、「見つけた時は足が震えた。全てを調べたわけではないので、まだまだ貴重な俳額が出てくる可能性はある」と話す。
同神社の俳額は、縦80センチ、横2メートルほどの木製。文字はほとんど見えなくなっているが、中西さんによると、44句が並んでおり、「萩わらの香分ほのかや菊の宿」「魚語る頃しも水の音軽し」「ほろほろと簾ほつれて秋の風」などの句を読み取ることができる。中西さんは、「文学的な雰囲気の濃い句。筆跡も流麗である」と評価する。この額の横にもう一つ、俳額と見られる額がかかっている。
句会は、しかるべき選者を招き、地元内外から参加していたと思われる。食事でもてなし、句を詠みあって板に記録し、奉納していた。中西さんは、「篠山の町並み、丹波焼など目に見える文化も大事だが、俳句を奉納する文化があったこともすばらしい。俳句、短歌などの短詩文化が根付いていた有力な証拠であり、その風土が日本遺産にもつながっているのではないか」と話している。