春の深まりとともに農作業が本格化しているが、現今、話題になっているのがイノシシやシカなどによる農作物被害。農水省によると、2017年度の全国の被害額は約164億円に上り、せっかく実った農作物が被害に遭い、農家の栽培意欲をへし折るなど、深刻さを増している。ただ獣害は今に始まったことではなく、昔々からあったよう。そのことを示す資料として、230年ほど前、イノシシやシカを捕らえると、褒美にお金を支給することを「村の定め」として取り決めたことを記した文書が、兵庫県の山間の地に伝わっている。
イノシシ3年子以上で「2万5000円」
兵庫県丹波市柏原町上小倉に伝わる江戸時代の寛政2年(1790)の古文書。「神社での神事に関わって行われる寄り合いに際して供するお神酒は二献だけとする」など、倹約を徹底することを申し合わせた上小倉村の「倹約定書」の中に、“イノシシ褒美”“シカ褒美”の条文がある。
それによると、正月から9日までの間に、3年子以上のイノシシを捕らえると、1頭当たり銀15匁(約2万5千円)、2年子なら銀5匁(約8千円)、1年子なら銀2匁(約3300円)を褒美として与えるとしている。また、シカについては、年齢にかかわらず1頭当たり銀5匁としている。
褒美の額が違うが、捕らえた者が村人だけか、他村の村と組んでいるかどうかでも異なっていた。イノシシは、村人が他村の者と組んで捕らえた場合でも同じ額の褒美を与えるが、シカは、他村の者と組んで捕らえた場合は与えないとしている。イノシシとシカとでは、イノシシの害の方が大きかったと推測される。
この定書の最後には、「以上の通り、村役人と五人組頭が寄り合って協議のうえ定めたものなので、末永く厳しく適用すること」とあり、時代が下っても、イノシシ褒美とシカ褒美は堅く守られていたのかもしれない。
江戸時代の村では、しばしばその村独自の「村掟」が定められたという。内容はさまざまだそうで、この条文もその一例と言える。