暖冬の立春

2007.02.05
丹波春秋

 昨年、亡くなった精神科医で作家の斎藤茂太氏は、九十歳になっても毎日できるだけ小一時間は歩いたらしい。パーティー会場などに行く場合は、目的地の手前で車を降り、会場まで歩いた。二足歩行は、ヒトの基本的条件。いつまでもヒトでありたいと願うから、歩くことに努めたという。▼人の体は使わなければ次第に衰えてしまう。これを「廃用性萎縮」というらしい。車に慣れきった生活をしていると、足腰が萎縮するのは必然と、私も週末はできるだけ歩くようにしている。▼その散歩コースには自生のタラがあり、過日、芽がふき始めているのに気づいた。早い芽吹きはフキノトウもそうで、我が家の庭に顔を出したフキノトウを天ぷらにして味わった。美味だったが、季節感を狂わせている暖冬を思うと、特有の苦味が薄気味悪くもあった。▼ロシアに「暖かさを好む者は、煙を我慢しなければならない」ということわざがある。便利で快適な生活にひたりきっていると、廃用性萎縮が進み、メタボリックシンドロームの恐怖におびえなければならない。そんな現代人の姿も暗示することわざだ。▼この暖冬も、「暖かい暮らしを好む」がゆえの現象かと思うと、煙がいっそう目にしみる。きょうは立春。寒さに震えながら春の訪れをこがれる日であってほしい。今年は切にそう思う。 (Y)

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