1億年前の小さな命

2007.03.28
丹波春秋

 「こんなん見せても皆迷惑そうにするだけですけど、私が一番大事にしてる化石なんです」。足立洌さんが差し出したのは、15?四方ほどのぶ厚い石だった。▼茶褐色の濃淡まだらになった表面は何の変哲もないが、よく見ると、隅の方にかすかに二本線がついている。虫が這った跡だそうだ。「途中で少し右へ曲がり、また左に曲がっている。多分、その方向にプランクトンか何かの餌があったのでしょう。1億数千年前に生きていた虫ですよ」。▼周りの濃淡の部分はそれぞれ泥と砂の塊で、水中の生物が食べ物と一緒に吸い込んで吐き出したのではないかという。こうした化石や、虫などが潜んでいた穴に泥が詰まった「サンドパイプ」など、過去の生物が生活していた痕跡を示すものを「生痕化石」という。▼「この虫がどんな姿をして、何を食べていたんだろう。ほんのわずかな日数しか生きられなかったかもしれないけど、1億年以上の後までそのあかしを残していると思うと、いとおしくて、川原で何時間眺めていても、飽きないです」。▼足立さんはこれに惹かれて二十三年間、調査に通ううちに、「恐竜」に出くわした。恐竜ばかりが脚光を浴びていいのではない。「たくさんの小さな生き物の命が連綿と続き、その延長に私たちの命がある」。そのことをしっかりと受け止めたい。 (E)

関連記事