一心不乱

2007.09.10
丹波春秋

 学生から就職の相談を持ちかけられることがあるという大阪大学の鷲田清一総長の話が面白かった(本紙5面参照)。学生の中には「私にしかできない仕事ってあるでしょうか」と問う者がいるらしく、それに対して鷲田氏は「何もない」と答えるという。しかし、それでは身も蓋もないので、こう付け加える。▼「どんな会社に入っても、だれでもできる仕事しかさせてもらえない。でも、毎日、その仕事を繰り返しているうちに、周りの人が『あの仕事はあいつにまかせよう』と評価するようになる」。人生の先輩として的を射たアドバイスだ。▼豊臣秀吉に、これに似たエピソードがある。信長の家来になってまだ日の浅いころ、秀吉は薪(まき)奉行を命じられた。秀吉にとっては役不足の仕事だが、腐ることはなかった。自ら火をたいて、必要な薪の量の目安をつけ、多くの囲炉裏を調査、無駄づかいをせず効率よく火をたくように注意して回った。▼すると、1年間の薪や炭の経費が従来の3分の1以下ですんだ。その仕事ぶりを信長が高く評価したことは言うまでもなく、のちに天下を治めた秀吉は、成功の秘訣を尋ねられ、「今日は今日の任務を一心不乱に務めてきただけ」と語った。▼どんな仕事でも手を抜かず、前向きに取り組む。当たり前のことだが、これがなかなか難しい。(Y)

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