シカやイノシシなどから農作物を守るため、山すそに設置されている「獣害防護柵」。兵庫県丹波篠山市内では獣害が目立ち始めた約20年前から防護柵の設置がスタート。現在、総延長は約460キロに達し、東京―大阪間の直線距離を超えている。市域のほとんどを囲んだことで獣害防止に一定の効果を発揮しているが、問題は継続した点検が必要なこと。急な斜面もあり、ただでさえ重労働な上、高齢化が進み、維持と補修を誰が担っていくのかが大きな課題となっている。
市によると、防護柵の設置は1メートル当たり5000円程度の費用がかかる。公の補助もあるが、地元の持ち出しも大きい。
また、柵の維持・管理は地元集落の仕事。一つの集落で柵を維持できていても、隣接する集落で抜け穴ができてしまっていると、被害は広域に及んでしまうケースもあるという。
一方、昨年の市内の獣による農業被害額は約1700万円。市森づくり課は、「柵があることで一定の効果は出ている。また、大切に育てた作物を獣に食べられた農家の悔しさは察するに余りある。柵があることで生きがいを守っているともいえる」と言い、「農作物の被害を防ぐだけでなく、車と獣による事故を減らすことにも役立っているのではないか」と話す。
ただ、「農業の担い手不足と同様、柵の適切な維持・管理は大きな課題だが、人口減と高齢化の中で地元住民だけではいつか限界が来る」と懸念する。
そんな中、地域住民と地域外の人が共に獣害防護柵を点検しながら交流する新企画が同市の畑地区で開かれた。
「柵の点検を通して、農都ならではの暮らしの魅力も感じてもらえたら」―。地元のみたけの里づくり協議会の岡本常博会長が参加者に呼びかける。
「さく×はた合戦」と銘打ったイベント。神戸、尼崎などの人を含めた計30人が参加し、同地区内の集落の山に入り、防護柵を点検しながら、獣が通り抜ける穴や倒木などで破損している個所を見つけては修復作業に励んだ。
同地区は毎年、集落に獣を誘引する要因となっている放置柿を地域内外の人でサルより先に収穫する「さる×はた合戦」を開催。獣害を通した地域づくりに取り組んでおり、柵の点検にも地域外の力を呼び込む新しい取り組みとして企画した。
「さく×はた合戦」のポイントは、農産物を守るための重労働に汗を流した後には、黒枝豆などの秋の味覚を堪能できること。労力を得るだけなく、“お返し”があることで、「楽しく、おいしい取り組み」につなげた。
参加した大学生らは、「体験で参加した身としては楽しかったけれど、地元の人たちが続けていくのは大変な苦労」と言い、「また機会があれば、ぜひ参加したい」と笑顔で話していた。イベントは今後も定期的に開催する。
市森づくり課は、「畑地区での取り組みは画期的。他の集落にも広がっていけば」と期待している。