認知症状が現れる病気は数10種類といわれている。認知症ではない可能性も視野に入れ、「おかしいな」と思ったらまずは相談や受診を。
認知症かどうか、医療にかかることが大事な理由がある。認知症の原因を明らかにすることだ。ただの認知症だと放置していたら、別の病気だった、ということもある。
認知症状が出現して、認知症治療薬を飲み続けたが、症状が改善されず、受診を中断し、薬も飲まなくなった、という方を訪問した。
6年前くらいから徐々に歩けなくなり入浴もままならない状態になった。会話も脈絡がおかしいと家族から相談の電話があった男性だ。
記憶障害の進行の様子や、身体状態の変化、会話がほとんど成り立たないなど、長年の経過を聞くうちに、「アルツハイマー型認知症ではないかもしれない」と、専門医を受診した。
結果は「正常圧水頭症」。脳脊髄液の流れが悪くなった状態だ。もし、6年前に画像検査を受けることができていたら、脳脊髄液の循環を改善する処置を受けて、認知症状は改善していたかもしれない。
その他にも、転倒などで頭部打撲の後、歩行不安定や言葉が出にくい、尿失禁などが見られるようになる「慢性硬膜下血腫」のこともある。打撲直後に頭部の検査で大丈夫だと言われても、数週間後に前述のような症状が現れたら再度受診してほしい。手術後に元気になって会いに来てくれた85歳の男性がいた。
また、甲状腺機能の低下やビタミン不足が原因のこともある。意欲の低下や反応の遅れなどからうつ病と間違われていることもある。脳腫瘍やアルコール依存が認知症状の原因のこともある。
これらの原因は、手術や服薬などで治療・改善できる可能性もあり、見逃してしまわないで、かかりつけ医や専門医への相談を勧めたい。その他にも、認知症状を呈する病気は数十種類といわれている。
発熱などの身体状態の不調や水分不足、睡眠不足、服薬の影響でも認知症状を起こすことがある。
「おかしいな」と思う時は、やはり相談窓口や専門家を頼ってみてほしい。
寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。