「耕しや」の屋号で水稲や黒大豆を栽培している、兵庫県丹波篠山市西浜谷の阪東佑貴さん(43)が、イタリア料理の「リゾット」に適した同国の米「カルナローリ」を栽培。同市二階町のイタリアンレストラン「CASA DEL AMICI(カザ・デラ・アミーチ)」のオーナーシェフ・北里大輔さん(39)と連携し、自宅で簡単にリゾットが作れるキット「丹波篠山リゾット」(2人前)を開発した。2人は、「コロナ禍で家庭での料理が見直されている。リゾットを知ってほしいし、キットが丹波篠山の名物になってくれたら」と期待している。11月上旬から販売する。
キットは、精米したカルナローリ100グラムのほか、地元産の乾燥シイタケとタマネギ、塩、オリーブオイルというシンプルな内容。フライパンで水650ミリリットルを沸騰させ、米と具材を入れ、時折混ぜながら15分程度加熱するだけで本格的なリゾットが出来上がる。
カルナローリのしっかりとした食感と具材のうまみが絶妙にマッチし、調味料がほとんど入っていないとは思えない濃厚な味わいに仕上げた。
基本の味付けにとどめ、好みでパルメザンチーズや黒コショウをかけたり、ベーコンを入れたりするアレンジの幅を持たせた。
本来、リゾットは少しずつブイヨンを足すなど手間のかかる料理だが、北里さんが「自宅で手軽に味わってほしい」と、調理過程を省略。試行錯誤を繰り返しながら、仕上がりを計算して具材や水の量を決めたほか、ブイヨンを使わない代わりにシイタケとタマネギを砕いて入れることで、うまみを米に浸透しやすくするなど、工夫を詰め込んだ。
女性に手に取ってもらいやすいようにとパッケージにもこだわった。自宅で食べてもらうことを意識したかわいらしい家型の箱で、カラーリングはイタリアの家の色を意識。農家とシェフがタッグを組んでいることを示す意匠も取り入れた。デザインは同市福住にあるデザイン事務所「SANROKU」が手掛けた。
2007年、会社を退職し、新規就農した阪東さん。家族経営で現在、水稲を6ヘクタール、黒大豆を2・3ヘクタール栽培し、冬場はみそ造りもしている。京都府福知山市出身の北里さんは、19歳から料理の道に。地元や大阪で修業した後、丹波篠山の店で腕を振るい、2014年に独立した。
子どもが同級生だったことで出会った2人。「地元の農家さんとつながる店にしたい」という思いを持った北里さんと、「生産者として少し変わったことをして発信したい」と考えていた阪東さんが意気投合。カルナローリの栽培者は全国でも数軒、県内にはいないことを知った阪東さんは、「米ならば技術も機械もある」と挑戦することにした。
北里さんが知人を通して手に入れた玄米を阪東さんに提供。苗箱で発芽させてから育てた米を、いったん全て種にするなどして少しずつ増やし、20アールにまで拡大させた。背が高く、茎も太いため収穫は通常のコメよりも手間がかかるという。
現在、同店や、他のイタリア料理店などに卸している。
阪東さんは、「餅は餅屋で、北里さんにお願いして本当に良いものができた。丹波篠山の農家とシェフが、地元の野菜を使って作っていることを知ってもらえたら」と笑顔で話す。
北里さんは、「イタリアのシェフはその店がある土地の素材を使う。料理人としてやりがいがある仕事だった」とにっこり。「丹波篠山の野菜は力がある。これからも生産者と連携して、良い6次産業を生み出していきたい」と意気込んでいる。
1キット950円。同店などで販売する。
◆カルナローリ◆ 粘りがなく、大粒で煮崩れることがない品種。中心に芯が残る「アルデンテ」状態が長く続き、調理時間が長い分、調味料もよく吸収する。熟成させてから使用するため、収穫後、1年以上は寝かせる。
◆リゾット◆ イタリアを代表する米料理。生米を炒め、ブイヨンを入れて煮る。日本の「雑炊」と思われがちだが、日本米で作ると粘り気が出てしまうため、カルナローリが決め手となる。イタリアンには欠かせない素材だが、国産はほとんど栽培されておらず、こだわりを持つシェフは輸入されたカルナローリを使うことが多いという。