創建時不詳だが、延喜式神名帳に載っている古社。祭神は武甕槌神で出雲系神族を制御するために鎮祭されたらしい。古事記にあるように、天つ神が国つ神(出雲)に国譲りをせまった記述を彷彿させてくれる伝承がこの地域には残っているのであろう。比較的新しい拝殿の中には、北前船の絵馬があるが、絵ではなくて木製の優品でこれを「作り出し絵馬」と言う。北前船で繁栄した所ゆえ、ここには宮大工、彫り物師が多くいたらしい。冬の海風を避けるため、本殿がすっぽり覆われている。
少し薄暗いが、向背に左下向きの垢抜けした竜が目に入る。真ん中の宝珠を掴み、目が鮮やかで躍動的だ。木鼻には口に木の玉を含んだ唐獅子、獏もいる。また肘木鼻には足が馬で頭の天辺に角が生えている勢いのよい麒麟が目に入る。そのすぐ下には、波と戯れる海鳥、松の木の間で遊ぶ山鳥がいる。6代目、中井権次橘正貞の優品である。
元高校教諭 岸名経夫