兵庫医科大学篠山病院の存続問題をめぐる市と医大との協議が、 大詰めを迎えている。 9月末で 「国からの移譲後10年は運営」 という法的な縛りが解けるのを節目として医大は、 赤字や施設の老朽化、 医師確保の難しさなどから、 赤字補てんがなければ撤退したいと申し出た。 今後の地域医療を、 誰が、 どう担うのか。 20日、 話し合いの期限としていた9月末まででおそらく最後となる協議が行われるのを前に、 交渉経過をまとめた。 (徳舛 純)
現在の交渉内容は、 「今後10年間の契約」 だ。 現在、 常務会、 理事会、 評議会などにかける案作りの段階で、 内容がまとまれば、 これらの役員会にはかられる。
市は交渉の過程で補助金を3倍に引き上げた。 病棟建て替え費用は2億円上積みしたが、 市と医大の間で約3倍の開きがあるとみられる。 酒井隆明市長は 「20日の協議にはさらに増額せざるを得ないと考えているが、 市の財政状況から、 建て替え分の要望額はとても約束できない」 としながらも、 「理事長は残す意向を持っている。 信頼したい」 と望みをかける。
「兵庫医大の撤退」 が即ち 「病院がなくなる」 ことを意味するわけではない。 もし存続不可となった時には、 市や医大はまず他の経営母体を探すからで、 医大も 「撤退の場合は、 リハビリセンター、 老健とともに引き継いでくれる病院を探す」 としている。
市が 「何としても医大に残ってほしい」 とするのは、 大学病院という本院があるからだ。 丹波地域で 「中核」 とされる県立柏原と、 柏原赤十字病院が医師引き揚げに悩むなか、 篠山病院だけが常勤医をほぼ減らしていないことは医師養成機関の強みと映る。 他の引き受け手を探したとしても、 医大ですら医師の確保に苦慮している小児、 産科については存続の可能性は低い。 両科は医師が1人ずつしかいないが、 市内で唯一小児科の入院を受けるなど、 重要性は高い。
また、 昨年、 市消防本部が救急搬送した1595人のうち、 612人 (38・4%) が篠山病院へ送られている。 次いで岡本病院が523人 (32・8%)。 篠山病院の救急機能がなくなれば、 患者の収容先を市外に求めなければならない。 丹波医療圏全体の救急体制も揺るがすことになり、 影響は大きい。
一方、 医大側には 「研究・教育機関でもある大学病院が地域医療を担うのは向いていないのではないか」 との認識がある。 飯田俊一・同医大理事は 「将来を考えれば、 大学病院ではない他の医療機関に引き継ぎたい。 ただ、 地域医療には貢献しなければならないので、 存続条件が整い、 財政的なリスクから解放されれば、 診療活動を継続する意向はある」 と述べる。
篠山病院は毎年数千万円から1億円程度の赤字運営。 都市部から赴任を希望する医師がおらず、 看護師などの人材確保にも苦慮している。 医大は今春、 神戸ポートアイランドに薬学部、 看護学部などをもつ兵庫医療大学を開設。 西宮の本院では最先端のがん医療に力を注いでおり、 篠山病院への投資は優先順位が低いという内部事情もある。
医大が市に財政支援を求めたのは、 国の診療報酬マイナス改定が始まった6年前。 旧多紀郡4町が医大に誘致活動を行った時の要望書に、 「救急医療の赤字補てん等財政の許す範囲で可能な限り協力していく」 と書かれているのを根拠に、 「約束通り、 応分の負担をしてほしい」 と申し出た。 市は支援を検討したが、 特定の病院を支援できるのかという議論や、 財政的な問題などから、 方針が出せないまま年月が過ぎた。
医大は移譲後、 地元の要望に応え、 休診していた小児科を再開、 精神科、 脳神経外科、 泌尿器科などの診療科を増やし、 地域医療の充実に努めた。 市が無償貸与した用地にリハビリテーションセンターと老人保健施設も開設。 医大の地域貢献は、 地域医療検討委員会の答申にも記されている。 財政支援策が何年も具体化しない市の態度は、 「市自身の地域医療の問題なのに、 耳を貸してもらえなかった」 と医大の不信感を招いた。
仮に協議がまとまったとしても、 救急医療を担う市内他病院への対応策や、 支援金の捻出策など課題も残る。 これまで病院運営に公費を投じていない篠山市だが、 地域医療を行政課題として取り組んでいく局面に来た。
「篠山市民は病院を空気や水のようなものに感じているのではないか。 コストを誰が負担しているか、 考えてほしい」。 医大側の思いは、 篠山市民にも向けられている。