神戸大小児科教授 松尾雅文氏に聞く

2007.10.09
丹波の地域医療特集

 県立柏原病院小児科で、 神戸大学医学部附属病院 (神戸市) 医師による診察が始まった。 丹波市が費用を負担し、 柏原病院が神大附属病院からの小児科医 (非常勤) を招へいする。 招へいを実現に導いたのは、 「県立柏原小児科病院を守る会」 の子育て中の母親たちの 「コンビニ受診を慎もう」 という、 一連の活動。 「丹波のお母さん方の活動は、 全国の小児科医を救う」 と同会の活動を高く評価する神戸大学小児科教授の松尾雅文氏に、 「守る会」 の取り組みの意義などを聞いた。 (聞き手は足立智和)

 ―― 「守る会」 の活動をどうとらえているか
  「自治体などの小児医療費無料化施策を背景に、 コンビニのように、 昼夜を問わず軽症で病院受診する患者が多く、 病院で勤務する小児科医の多くが 『何かおかしい』 と思いながら、 診察を続けてきた。 医師から見ると、 小児救急患者の90%以上は、 昼間の受診で対応が可能なものだ。 これは全国共通して言える現象だ。 疲弊した医師が病院を去り、 小児科医のなり手も減っている。 コンビニ受診が、 小児科医不足の一因になっている。 『守る会』 は、 医師の気持ちをくんでくれた。 患者サイドから医師の立場や、 病院にかかることの意義を説き、 受診抑制を訴えた住民運動は、 おそらく全国で初めてだろう。 全国で初めての出来事が丹波で起こった。 この運動が全国に広がれば、 現場で働く小児科医たちの労働環境は、 大きく改善されるだろう」
 ――なぜこういった運動が丹波で起こり得たか
  「小児科医2人のうち、 1人が院長になり、 実働医がもう1人だけとなり、 『小児科医療がなくなるかもしれない』 という究極のところまで追い詰められたからだろう。 『誰もいなくなる』 ことが目の前に迫り、 そこで気付かれたのだろう。 『医師派遣を』 という運動だけでは医療の消滅を避けるのは難しい。 『患者側も気をつける』 という運動は、 『医師派遣を』 の先をいっており、 最先端の現象と言える」
 ――松尾教授の教室の医師が今回、 市の事業で県立柏原病院で勤務することになったが
  「教授の命令で医師が動く時代でない。 柏原病院は、 守る会の活動と市の財政支援で働く環境が整った。 今の環境であれば、 応援に行く医師がいる。 しかし、 環境が悪くなれば、 分からない。 神戸から見ると、 柏原は物理的に距離が離れている。 距離を越えたメリットがなければ、 医師は集まらない。 メリットの第1は 『働きがい』 だ。 小児科医は、 献身的だ。 少々遠くても、 『働きがい』 を医師が感じれば、 応援は続くだろう。 しかし、 当直に行っても、 『コンビニ受診が多く、 他地域と同じ状況』 ということになれば、 応援が途絶えるかもしれない。 柏原病院で働きたいという環境を作るよう、 住民、 病院、 自治体が常に努力しなければ、 距離の壁を克服することは難しいだろう」

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