兵庫県立丹波医療センター小児科医長で小児科専門医の岡本光宏医師(39)が、同病院での臨床、研修医とのやり取りから着想した医学書を続々と出版している。同病院に着任した2019年に最初の単著「小児科ファーストタッチ」(じほう社)を出版して以来、5冊を出版。インターネットポータルサイトの最大手「Yahoo!JAPAN(ヤフージャパン)」の「Yahoo!ニュース」公式コメンテーターも務めており、医療関係者と、子どもを持つ親に正しい医学知識を発信し続けている。
小児科専門医からの子育てアドバイスや時事の小児医療話題の解説を、自身のブログ「笑顔が好き。」で発信している。ある時、小児科専門医は目指さないけれど、小児患者を診る必要に迫られた同病院の後輩医師から、「参考になる本はないか」と尋ねられ、ブログにつづっていたA4用紙200ページにもなる自身の文書をプレゼントしたのが、本を作るきっかけ。ここから「小児科ファーストタッチ」へと発展した。
同書は、初期研修医(医師免許取得後1、2年目で、専門を持たず、各診療科を回る)向け。小児科研修は必修で全員、最低1カ月学ぶ。初期研修後に、小児科医に進むのは一握り。多くは別の科に進む。進んだ科で小児患者に苦手意識を持たず診られる医師になってほしいと願いを込め、診るためのこつ、対応法を記した。医療用ガウンに入る、ポケットマニュアルで、初期研修医の「こんな研修がしたい」という現場の声を生かし執筆。「使える」「参考になる」と、評判に。現在7刷、1万5200部と、医学書では大ヒット作となっている。
2冊目の「研修医24人が選ぶ小児科ベストクエスチョン」(20年、中外医学社)は、県立丹波医療センターの研修医とのQ&Aをまとめた。
3冊目の「ママとパパの赤ちゃんと子どもの病気・ホームケア事典」(21年、朝日新聞出版)は、監修を担当。「小児科ファーストタッチ」を、分かりやすくかみ砕けば、保護者向けになると考えた。発熱、うんちのトラブル、異物を飲んだ、やけどをしたなど、症状や事故、けが別に、医療機関受診の目安と家庭で行うケアを具体的に記載している。同病院でも、夜遅くに「1歳の子が39度の熱を出している」などと相談電話があった場合の受診の目安、トリアージに使っている。「事典というぐらいなので、網羅している。家に1冊置いてもらえれば」と岡本さん。
他に、医師向けの2冊「子どもの診かた、気づきかた 小さな異変もこぼさず拾える!」(21年、じほう社)、「めざせ即戦力レジデント!小児科ですぐ戦えるホコとタテ 小児科ではコモンなディジーズの診かた」(22年、診断と治療社)を著した。医師の「あだち先生」や丹波霧が登場するなど、ほんのり「丹波テイスト」を潜ませた部分もある。
岡本さんは、「この病院に来ていなかったら、本は生まれていないと思う。教育を求め、勉強したい人がいるから本を書く。人に教えるには、いい加減なことは書けないので、自分に偏りがないか、思い込みはないか、常に最新の知識が更新できているか、自分の勉強にもなる」と言う。「本やネットで発信し続けるのは、小児科を学びたい医師を、ここに呼ぶリクルートの一つでもある。本を読んで来る研修医がぼちぼちいるので、しっかりしなければ、と自分への戒めになります」とほほ笑んだ。