防災について考える「社協ふくしまつり」がほど、兵庫県丹波市で開かれ、「暮らしになじむ ゆるっとアウトドア防災」と題し、阪神淡路大震災の被災体験と、アウトドアの知識を生かした講演活動などを行うあんどうりすさんが登壇。身近にあるものや、アウトドアグッズを防災に活用し、無理なく災害への備えにするアイデアを紹介した。要旨は次の通り。
「すぐ乾く服」生活に
発熱すると、おでこは冷やしても意味がない。首の後ろ、脇の下、足の付け根などを冷やすと良い。濡れタオルを体に付けると冷える。これは、液体が気体に変わる「気化熱」という現象で、熱を奪ってくれるからだ。
これは豪雨のときなどに役立つ知識。低体温症になると、体温が下がり続ける。よく山に入る人は、体が濡れることを怖がる。透湿防水素材の服を着ると、体重50㌔の人が水たまりの上に座ってもしみてこない。
ただ、濡れない服は蒸れる。アウトドアでは、服に穴を開ける工夫がされている。水蒸気は通すが、雪や雨は通らない。これは農作業にも使えたりする。
このような服を子どもにも使いたいが、すぐに大きくなる。アウトドアの服は、大きなメーカーは「YKK」のファスナーを使っている。ファスナーにナンバーがふってあり、この番号が同じものを利用すると、服をジョイントして着ることができる。
コットンという素材は、汗は吸うが乾きにくい。下着は濡れると体温を下げてしまう。ポリエステルやシルクが良い。シルクは汗を吸うが、肌の水分量は保水し、それ以上の保水はしないから体を冷やさない。アウトドアでは、すぐ乾く素材の下着とかを着たらいい。
一番、温かいインナーはウール。汗を吸うと2度くらい発熱して保水しない。昔、ウールはチクチクして嫌われていたが、今はすべすべしている。高価だが、10年くらい持たせたらいい。
ウールの繊維を化学繊維で再現した発熱インナーもある。洋服を洗濯して脱水したら、ほとんど乾いているのがアウトドアの服。すぐ乾くような服を普段の生活に取り込むと、寒くないし災害時も使える。
動かない空気を意識
薄い服を重ね合わせると温かいのは、中に動かない空気層ができるから。部屋の中にテントを立てると、動かない空気層ができるので温かいのと同じ。段ボールベッドが温かいのも同じ理由で、段ボールの中に動かない空気があるからだ。
ダウンジャケットは中に鳥の羽根が入っていて、空気をためる最強の素材。体温が高い方が羽根は膨らみ、膨らんだ羽根がたくさん空気をつかむほど温かくなる。だから、体温が低い寝たきりの人にダウンを着せてあげても寒いままだ。ダウンを膨らませるにはポケットにカイロを入れると良く、その熱でダウンが膨らんで空気をたくさんためる。体にカイロを付けると、汗をかいて気化熱で体温を下げてしまう。
ダウンは水に弱く、雪や雨のときにダウンを着ると寒いので、レインウエアの中に着ると良い。ダウンを長く持たせるには、ぐしゃぐしゃにたたむ。同じところがしわになると、早く傷んでしまうからだ。
車中泊はこつがいる。寝袋を着たら温かいという人もいるが、大事なのは下に断熱マットを敷くこと。雪の上で寝ても、断熱マットがあると寒くない。安く売っているし、軽いので、いつものカバンに入れると良い。避難所になる体育館は底冷えする。冷気を防げるし、おむつシートにも使える。
風速1㍍の風が吹くと、体感温度は1度下がると言われる。新型コロナで、避難所でも換気のために窓を開けるので寒い。風を防ぐ格好をする必要がある。夏は逆の対策をとれば良い。
力士が落ちてくる?
災害時、家にいればいいのに、外に出てしまうことがある。一方で、家にいてもリスクはある。水害時には、浸水により家具が浮いてしまうことがあり、2階に逃げられない場合がある。家具の固定は水害対策になる。
自分が住んでいる地域のリスクを知ることは大事。豪雨、水害対策として、市のハザードマップと、国のハザードマップの両方を見ておくことは重要だ。また、「うちは警戒レベル3で絶対逃げる」などと決めておかないと逃げられない。「マイ避難計画」を立てることは大切だ。
天気予報の見方も重要。気象庁が臨時会見をしているときは、本当に危ない。アウトドアの重要なスキルは、自然現象をイメージすること。例えば、1時間に100ミリの雨が降るというのはイメージしにくい。これは、1時間に1回、1メートル×1メートルの範囲に100キロの力士が1人落ちてくるイメージだ。
車で避難するときは注意が必要。窪地になっている所に水がたまり、そこをライトで照らすと反射し、ひたすらまっすぐな道に見えてしまい、全く深さが分からない。車での避難は昼間のうちに決断することが大事で、夜だとリスクがある。
今、アウトドアで流行しているのは、ポータブル電源を持っていくこと。これはスマートフォンの巨大な充電器だと思ってほしい。災害時に停電すると、電気でお湯を沸かすことができなくなる。ポータブル電源があれば電気は確保できるので、備蓄する人が増えている。
2万円くらいのものならスマホ、パソコンのほか、最新の冷蔵庫はたくさんの電気を使わないので動かせるかもしれない。防災用に推奨されているのは5万円くらい。
避難時に持ち歩くカバンは、中身が揺れると重く感じる。重たいものは上に入れる。いつもカバンに持っておくといいものは、ホイッスル。水に濡れると音が鳴らなくなるので、玉が入ってないものにすること。それからLEDのライト。ヘッドランプだと両手が開いて良い。いつものカバンを防災仕様にしてほしい。
半円描き腕高く
アウトドアの、とっておきの技を伝えたい。高い所に脱出するクライミングの技で、足元に土砂が流れきたり、浸水したりして、高い所に手が届けば助かるというときにやってほしい。腕を高く上げる方法で、体の横から半円を描くように上げると、下から上に上げるよりも高く上がる。
「その日」だけでなく、日常生活に防災を取り入れてほしい。